文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

氷結(新田怠惰佑)

高速バスが走るような広い道路から分岐した生活感のある道路。車もろくに入れないような細い道に面した、四階建てのアパートに山本は着く。女の家は一階の西隅で日当たりの悪いこと。

「おはよう。」


「あ——どうもおはよう…ございます…」


「敬語じゃなくていいのよ。あたいたちそんな畏まる関係だったかしら?」

「——うん。そおか——」
今日の朝ご飯は至って驚くこともない。パンにケチャップをかけてチーズを乗せて焼く。飲み物はルイボスティーかオレンジジュースから好きな方を。デザートはメロン!

「食べる?」

「食べる…」

「本当に食べる?」

「うん。」

「食べるのね本当に?」

「——だからうん。」

「あなたそれでも図太いのね。」
ルイボスティーを選んでおきながらメロンを食べた山本。それが女の逆鱗に触れたのだという。女は山本の顔面をぐにゃぐにゃとしょうが醤油のように触れる。

「オモシロい顔してること。鏡で自身の姿を確認してみて下さい」 
へつらうような敬語が不気味さを演出する。山本は気付かざる猿。
燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや

「は、はい」
コゴミのような色をした鏡を受け取り、自身の顔を確認した。元々イケメンではないが、今は尚 海苔のように太い眉毛に薄気味悪く濁った目、餃子のように形の悪い蚰蜒耳。それはもう俺じゃないようだ。

「これは、俺なのか?」

「へぇ。ウケる」

「何かしただろ?」

「キモいんですけど(笑)」

『蛙の面へ水』とはよく言ったもんだ。この言葉はこういう時に使うんだな。

「——だから。」

「そらあ、あたいは山姥よ。人の側頭頭頂筋と咀嚼筋を喰い荒らして生きてるんだから」

「——はあはあはあはあ。」
「——ああああああああ。」
山本のくしゃくしゃになった顔は2度と戻らなかった。

────End────
作 新田怠惰佑