文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

死神・笹岡 量二 (七寒六温)

人生に疲れ、もう死んでもいいかななんて思って屋上に来た。多分 ここから飛べはさすがに死ぬんではなかろうか……
だが今日は死にに来たわけではなく、ただの下見。まだ最後の晩餐も決めてないし、どうせ死ぬならラストチャンスとして買った宝くじの結果発表もまだだ。大金が入ったら死にたくなくなるかどうかは分からないけど。  

 

「あれっ、もしかして君、死のうとしてない?」

 

「ん? どこからきたんだ……」
単に僕がぼーっとしてて気づかなかっただけか、気がついたら僕の隣に、黒いコートに変な形のシマシマ模様の帽子と全身が黒いで覆われた同い年くらいの男が立っていた。

 

死神のつもりか……?
まあ、人の服のセンスをどやかく言えるほど、僕もおしゃれではないけど。 

 

「えー無視? 君、僕のこと見えてるでしょ? もしかして見えてないの?」
「ねえねえ、もしもしーもっしもーし」

 

「見えてますよ……見えてますが、あなたがどこのどなたか分からないので無視しただけです。そもそも僕に話し掛けているのかどうかも微妙でしたし……」

 

「ええっ……?」
「もしかして、僕以外にも何か見えてるの? 幽霊とか、モンスターとか?」
彼は周囲をキョロキョロする。見渡した所で僕と彼以外は他に誰もいない。

「見えてませんよ、僕は霊感とかそういうの全然ないんで……」

 

「じゃあ、何で無視したのさー?」

 

「それはだから、あなたがどこのどなたか分からないからですよ」

 

「そうでしたね。申し遅れました」
「死神のサーリヨです」

 

「死神……?」
あー 中学2年生の9割が発症するというあの病気が完治していない人間かぁ……だからこんな服着てるのか。まあ、楽しそうな人生で何より。

 

「あれっ? 反応が薄い……」
「もっと、こう……『し、死神だぁー』みたいなイチ驚きが欲しかったなー」

 

「驚くって、それはあなた本物には見えませんし、驚くって言われましてもね~」

 

「言われる。確かによく言われる。サーリヨって死神っぽくないよねって……まあ、サーリヨなんて名乗ってるけど本名は笹岡 量二 だしね。仕方ない、仕方ない。多少の覚悟はしているから」

 

「はぁ……そうですか……」
キャラ設定がブレブレだな~。
サーリヨでいくって決めたんならサーリヨを突き通せばいいのに。わざわざ本名なんて…… 笹岡? 笹岡なんて聞いたらもっと、死神になんか見えないよ。

 

「君の名前は知ってる……」
「何故なら死神だからね。まあ君のことはA君って呼ぶよ……」
確かに僕は秋山だけど……たまたまだろ?適当にAっていったら当たっただけだろう。

 

「あ、別に下の名前のT君って呼んでもよかったんだけどね」
ん? これもあってる。僕は隆大だからTだけどこれもたまたまだろう。

 

「君、死神って聞いた瞬間に、『やった、死ねる?』って思った?」

 

「別に……思ってません」

 

「いや、思ったでしょ? 思ったな、思った……絶対に思ったでしょ?」

 

「はいはい 分かりましたよ、分かりました。じゃあ思ったってことでいいです」

 

「はい、ざんねーん」
「君は死ぬことができませーん!」
は? 何だこいつ?
そっちがしつこく聞いてきたから仕方なくそう答えてやったのに……速攻の否定。

 

「イメージ……それはただのイメージに過ぎない。死神ってさー漫画や映画の影響もあってイメージが悪いんだよねー」
「死神といえば、人の寿命を奪うだとか死を知らせにくるとか思われガチだけど死神の役割ってそんなことじゃないから」

 

「死神は、こちらの世界で死んだ人をあちらの世界に案内したり、死ぬ運命にない人が死のうとしているのを止めて1年の死者数を管理するのが役割。悪いイメージを抱かれるけど結構いいことしてるんすよ」

 

「管理……?」

 

「分かってないようっすね。まあ分かんないかー じゃあ分かりやすく説明することにしまーす」

「じゃあ質問するけどー」
「君は何で死のうとしてたの?」

 

「まあそれは……これっていう大きな理由はないですけど、最近辛いことばかりでつまんなくって、これ以上生きてても意味あるのかなーって何となく考えて……死ねば、痛い経験 辛い経験もしなくていいじゃないですか……死んでしまえば全てが終わる。そんな気がして」
「でも、死のうとはしてないんですよ、今日は…… いつ死んでもいいとは思ってましすけど……」  

 

「はい、ざんねーん。死んでも、終わりませんよ。あなたは、死後、天国か地獄に行けると思った? 思ったでしょ?」
「残念ながら、行けませーん!」
腹ただしい、さっきから……
行けませんって、お前の方も分からないだろ? 死んでないんだし…… まあ僕も天国や地獄はないと考えてる方の人間だが。

 

「この世界で死んだ後なんだけど、今 生活しているような世界に、もう1度生まれて、同じように生活を送るんすよ。まあ、その場所は素界っていうんだけどね……他に物の呼び方が素界では少しだけ違って、冷蔵庫はコンフィー、スパゲティーのことをポルセーノと呼ぶ」
「だから、死んでも何も変わりません。素界で赤ん坊として生まれて、また0才からやり直すことになりま~す」

 

「やり直せる? 人生やり直せるんなら、やり直したいと思ってたし願ったり叶ったりだわ。本当にやり直せるんならですけど」
「やり直せるんなら、人生やり直したい……どこからって聞かれると難しいから0才から、全くの0からやり直せるなら、もはやそれが天国ですわー」

 

「あのー勘違いしているみたいっすけど、まあ、自殺のような運命に逆らって死んだ人に関しては、死後の能力が引き継がれるので、ほぼ変わらぬ生活を素界で再び送るだけですよ。人生をやり直すことは出来ません。それに、世界で35歳まで生きるはずだった人間は素界で35歳まで生きる運命になります。来てからもまた同じ事を繰り返されても困るんで、世界で自殺したことによって素界にきた人間は、素界では自殺できない仕組みになってるんで」

「あ、名前だけは変わりますよ~おそらく、アキータかヤマヒー」
将来は小説家か……
創作にしてはなかなか面白い。
アキータかヤマヒーって名前はダサいからやめて欲しいが……ってアキータもヤマヒーも秋山 隆大(アキヤマ タカヒロ)のあだ名としてもしっくりくる。そんなあだ名で呼ばれたことは1度もないが……そもそも僕にはあだ名で呼んでくれるような親しい人なんていなかった。学生時代も今も、親友はおろか、友だちなんていない……
僕の名前をなんで知ってる? まさか本当に死神? そんな まさかなー

 

「だから、自殺なんてやめた方がいいっすよ。本当に意味ないんで……」

「例えばだけど、30歳の人が後2年で死ぬはずだったのに、30歳で自殺してしまったら、素界では32年生きないといけなくなるんで、今が辛いって思っている人ほど自殺せずに運命に従う方がいいんすよ」

 
「そう言えば、今さらっすけど、今、いくつっすか?」

 

「今、28だけど……」

 

「あーなるほどーもう28かぁ……」

 

「もう28って、もっと下に見えましたか?」

 

「いや、そういうわけじゃないけどねー」

 

「逆に、あなたは? 見た感じは、僕と同じ世代に見えますけど」

 

「死神年齢は180歳……死神は1年に10、歳を取るんで……」
「まあ、人間の年齢でいったら、46歳っすね……まともに生きてたら46歳だったか……」

 

「あと1つだけ教えとく。死神って人の寿命が見えるって話は嘘じゃないんすよ……」
「君……そもそも君は、君が思っているほど長くは生きられないから……だから自分で死ぬなんか考えずに残りの人生を楽しむことを考えなー」

 

「はいはい 分かりましたよー」
わけの分からないやつとわけの分からない話をしてたら死ぬ気はなくした。元々下見のつもりだったが、下見もする気がなくなった。

 

「忠告はしたからね、忠告は!」
「それでも自殺した時は、素界に行くときの手続きは、僕がするから、よろしく」

この日僕が会った笹岡 量二はただのイカれた人間だったのか、それとも本当に死神だったのか……ただ僕がもう少し生きようと思ったのは、紛れもなく彼のお陰である。

 


この数年後 僕が交通事故で亡くなるのは、もう少し先の話である。