文芸ヌー

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【ニッケル・サンダース 3/3】 後始末 (井沢)

ウェイターはニッケル・サンダースの後始末をする


「ジーザス」
全く。
セルフ式のカフェだというのに、トレイを席に置いたまま帰った客がいたらしい。
もちろん、そういったものを片付けるのも彼の仕事。
そういったものを予測に入れ対処するのも彼の仕事。
またこんな混雑時に…
ずっとフロアを見て回っていたはずなのに、いつからこのままだったのであろう?
待っている客もいる。 気付いて気を悪くしていたかもしれない。
ウェイターは少し恥じ、思ったより随分と腹が立った。

トレイに綺麗に配置された空のグラスと器。
皿の上に水平に置かれた銀のフォーク。
あまりに綺麗に配置されているのが余計に苛立つ。

トレイを下げようと右手をかける。
銀のフォークの下には
これまた一寸の狂いもなく水平に置かれた14:54打刻の伝票。
オレンジのペンで走り書き。
“17:54”
達筆だな 紳士だろうか
ふと思いウェイターは腕時計に目をやる。
17:54 。

瞬間、
ドオンという音と共に店内は揺れ明かりが消えた。
ビィィィンと窓が鳴り、あるものは落ちた。

一瞬の静寂の後、薄暗い中で客達はざわめきだした。
しばらくして電気は復旧。
窓側の一番端の電球だけ切れている。
黒く焦げた天井。
はずれかけた窓枠。
客達はせわしなく携帯電話(あるいはそのカメラ機能)を動かし、何故だか笑っている。

そう、笑っている。

「ジーザス。」
ウェイターは吐き捨てるように言い、手をかけたトレイをカウンターへ運んだ。

伝票の時刻からちょうど3時間後のこと。