文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

【ニッケル・サンダース 2/3】 落雷 (井沢)

再び雷雲の上、高木と中本とサンダース


「目標が見えてきたぞ。」

「国道バイパス沿いのカフェか。」

「どこもかしこもケン・ヒライかよ。」

「何の話だよ。」

「なあ、あそこの窓際カウンター席のいちばん端っこでいいのか?」

「ああそうだ。」

「思いがかさなるその前にそっと俺の手を握るつもり?」

「いや全然。いいから太鼓の用意しとけよ。」

「ラジャー!」

 とんとん たとん とん たとん

「お いいね~」

「歩いてる人も雷を気にしだしたよ。」

「早足だね。」

「通勤ラッシュだものね。いや、帰宅ラッシュか。」

「ドリーム・ラッシュだよ。」

「ところで何でカウンター席の真上なんだ?」

「…あそこの電球だけさ、切れてるんだ。」

「ああ。」

「切れちゃったか。」

「うん。」

「じゃあ仕方ないね。」

「うん。」

彼らは「切れた電球を電流でもって破壊する」ことに関して同意見だった。
電気の通らなくなったまま放置されるくらいなら、ひと思いに破壊してほしいはずなのだ。 生涯流し続けてきた電流で。
そんなわけで、彼らが雷を落とす場所は切れた電球のある所と決まっている。たまに映らなくなったテレビや電池切れのウォークマンというのもあるが、だいたいが切れた信号とか、室内灯とか、ネオンサインであった。それらは別に誰から命じられたわけでもなく、ただなんとなく、3人で組みだした頃から無闇矢鱈に雷を落とすのでは面白くないということでそんなルールを作ったのだ。


「そろそろ雨を降らせとこ。そりゃー」

「おお~」

「走ってる走ってる。」

「お前さ、どうせあの観葉植物わきあたりのしみったれた席に座ってたんだろ。」

「何でわかった?」

「セルフ式の店でああもばか丁寧にトレイ置きっ放しにしてくるのはお前ぐらいなもんだよ。」

「え。あれ自分でやんの?」

「そうだよ。だからリーズナブルな価格設定なお店なの。」

「つうか、まだ置きっぱになってたのか。」

「混んでるのにな。」

「あっ気付いた。ボーイさんも“しまった”って顔してるよ。」

「混んでるのにな。」

「ホラいるじゃん。片付ける係の人。」

「まあな。」

「やってくれるけどな。」

とんたん とたん たたん たたん

「そろそろ落とす頃合いかな?」

「ハイハット合わせるからさ。」

「なんかドラムセット豪華になってない?」

「カウベルもあるよ。ごろーん」

「雷にはいらないよ。」

「ボイス・パフォーマンスで済ませろってことかよ。」

「そんなに欲しいかカウベル。」

「カウベル買うべ。る」

「なんのこっちゃだ。明らかに“る”が余計だし」

「余計な物などないよネ、とCHAGEも言っている。」

「ASUKAも言ってる。」

「お前まで。」

「変化つけられる方が楽しいじゃない。」

「まあね。」

「全ては君と僕との愛の構えだともCHAGEが言ってる。」

「お前との?」

「ともかくさ。」

どんどん たたん ど どん たたん

「そういえば」

「どうした。」

「テーブルに置いてきたままだったなあ。」

「何を?」

「メモ。」 たたたた とととと

瞬間、ボーイがメモに目を落とした

「あ」

(ドオン)ごろーん


かくして雷は落とされた。
間の抜けたカウベルの音の余韻は、やはり余分に思われた。