文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

紫蘇子のDOKI♡DOKI書き出し日記(葱山紫蘇子)

私、葱山紫蘇子。駆け出しの書き出し小説家です。

書き出し小説ってなあに?と思ったそこのキミ!おっくれってる〜。ムカついたなら目の前の便利な機械で調べてみてね。

今日は書き出し小説のネタを探しに、いつもは乗らない路線の電車に乗って、知らない駅で降りてみました。

なーんて、ウフフ、ちょっとカッコつけちゃった。ほんとは、もうひとつ向こうの大きな駅で降りるつもりが、開いた乗車口から唐揚げを揚げてるいい匂いが漂ってきて、わたくしのこの足めが、勝手に電車を降りてたのでアリマス…えへへ。

 

降りた所はレトロな雰囲気が素敵な駅舎。あら、トイレがぽっとん便所だわ。ムムム、予感がします!これは傑作のできる予感がします!なーんて、こんな小ネタを書くと歳がバレちゃうわね。

さてさて、とりあえずは唐揚げの匂いがする方向を目指すとしますか!

改札を出ると、すぐにコンビニがありました。唐揚げの匂いはここだったのね!灯台下暗し!(ちょっと違うかナ…)。常日頃、鶏に蹴り殺されてもいいぐらいの量を食べるほどの鳥から好きの私は、もちろんここでも唐揚げを買いました。あー、コンビニの唐揚げって、だいたいどこのも似たような味で、当たりはずれ無いよね!

唐揚げをムシャムシャやりながら、周りを見渡すと、小高い丘を見つけました。

Huum…丘の上に小さな展望台があるみたい。私は、唐揚げをムシャムシャやりながら坂を登ることにしました。

10分ほど坂道を歩くと、日頃の運動不足がたたって、ひいひいふうふう息があがってきちゃいました。あーん、ツイッターばっかりやってちゃダメね、運動しなきゃだわ。などと思っていたら、息も絶え絶えの中年女性の横を、茶トラ模様の猫ちゃんが、ついーっと追い抜いていきました。

あら、きゃわいい。ねえ、お前、唐揚げは好きかい?ほらお食べ。よしよしよしよし。よーしよしよしよしよし。野良みたいだけど人に慣れてんのね。よーし、お前の名前はマイケルよ!ほら、目を瞑るから今のうちに踊りなさい!踊ってマイケル!なーんて、また昭和の小ネタを書いちゃったわ。

唐揚げを食べたマイケルは、こちらを振り向きもせず、戸建てが並ぶ塀のすきまへ素っ気なく去っていきました。

 

展望台まであと少し。ようし、ここまで来たら、もう行くっきゃない!行くっきゃないもん!汗をふきふき、私はお得意の難波歩きで坂道をかけあがります。

小さな公園のような展望台には、戦いに敗れたようなベンチがひとつ、ぞんざいに置いてありました。

ベンチに座ると見晴らしが良く、大阪湾から梅田付近の高層ビル群、遠くは生駒山脈まで見渡せました。

あ、早速ひとつ思いついた。

 

電車からふらりと降りて、初めて立ち寄った町の見晴らしのいい丘を登ると、程よい便意が駆け抜けていった。

 

我ながら良いのができたわ。やっぱり、こうやって外に出てリアルを感じると閃くわね。うんうん。

しばらくベンチに座って火野正平のモノマネをしたりしてましたが、なんせ手洗い場も水飲み場もないベンチだけの広場でしたので、私は早々に駅へ戻ることにしました。

登ってきたときには気が付きませんでしたが、坂の途中に、人目に付きにくい、いい感じの茂みを見つけました。そこで所用を済ませたり、拭くものを探していると、意外と時間がかかってしまいました。

あ、またひとつ思いついた。

 

坂道を下りきると、私が大事にとっておいた便意はあとかたもなく消えていた。

 

うふふふふ。私、絶好チョーなんじゃない?さてと、すっきりした事だし、駅へ向かいますか。しかし、茂みを出て歩くと、方向を間違えてしまったようで、また坂道を登ってしまってました。

あ、また思いついたわ。

 

日はまた昇る。便意もまた昇る。

 

これはいいわね。良いアイデアがどんどん湧くなら、道に迷うのも悪く無いわね。急がば回れ。回れまわれメリーゴーランド。

でも、さすがに日も暮れてきたし、そろそろ駅に戻りたいわ。正しい道はどちらかしら。思えば今まで私は正しい道を選んできたのかしら。私がいま歩いてるのは破滅への道じゃ無いかしら。そうだ、私は間違ってた。進学も就職も結婚も子どもの幼稚園選びも、全部失敗ばかりの人生だった。こんな風に生きるために生まれたんじゃないのに。私、ワタシ、一体何やってんだろ。助けて!誰か!助けてください!タス…ケテ…。

などと夕焼けを見ながら考えていたら(夕焼けを見るとおセンチになりがちなワタクシでありマス。テヘへ。)行きしに会った茶色の猫が、目の前に飛び出してきました。

あらマイケル、また会ったわね。どうしたの。あらあらやだやだ。お前ったらこんなところで…。あ、またひとつ思いついた。

 

便返しだ。いや、まちがえた、恩返しだ。

 

すっきりとしたマイケルは、私の方をちらっと振り向いて歩き出しました。それはまるで「僕について来てニャ」と言ってるようでした。マイケルの置き形見を踏まないように気をつけながら、その後をついて行きました。

道に迷って情緒不安定になったのが嘘のように、駅にはあっという間に着きました。マイケルは私の顔見て小さくニャーと鳴くと、コンビニの裏へ消えてしまいました。ありがとう、マイケル。お前のことは明後日くらいまでは忘れないよ。

空を見上げると、それは素晴らしい夕焼け空で、茜色から紫色のグラデーションの合間にひとつ、一番星が輝いていました。コンビニからはまた唐揚げの芳しい香りが漂っています。夕飯の時間帯です。私は少し心細い気持ちになってきました。

あ、また思いついた。

 

便意で失った信用は便意で取り戻す。

 

私はコンビニに入り、まずは所用を済ませて、また唐揚げを買いました。店を出てもマイケルはいなかったので、唐揚げは一人で食べました。食べ終わるとちょうどグッドタイミングで電車が到着してくれました。

私は乗客の居ない電車に乗り、その駅をオサラバしました。



紫蘇子のDOKI♡DOKI書き出し日記はいかがでしたでしょうか?

あなたのハートには何が残りましたか?

最後まで読んで頂きありがとうございました。

書き出しは全て不採用でした。

 

 

 

※デイリーポータルZ「書き出し小説大賞」187回に応募した文中の5つの書き出しが不採用だったことと、私が唐揚げが好きなこと以外は全てフィクションです。

※猫に唐揚げなど人間の食べ物を与えてはいけません。野良猫にエサを与えることもいけません。