文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

何故かウィンク(puzzzle)

 突然の休校要請に喜んでいたけれど、平日になれば家で1人きり。ゲームばかりやっていても直ぐに飽きた。土日だってゲーム漬けだったから。人混みに行かなければいいのだろうと、俺はサッカーボールを持って家を出る。あすなろ公園に着けば、同じように暇を持て余したやつらがボールを追いかけていた。アリガとシメタとオンノジじゃん。
「右右右、そこシュートっ」
 聞き慣れない声もすると思えば、ベンチに座っている大きな背中が見えた。アリガのお父さんならば以前遊んだことがある。目を細めても前屈みになっているのか頭が見えない。3人ならば、一緒にやればいいのに。でも、俺が混ぜてもらうにはちょうどいい。シメタが俺に気づいて手を振る。すると、聞き慣れない声が俺を呼んだ。
「おお、もう1人来たか。来い来い」
 ベンチの男は前屈みのまま動かない。ほかにも誰かいるのだろうか公園を見渡す。ふいにオンノジが俺に向かってボールを蹴った。俺はそれをトラップしようと胸を反らす。しかし、飛んできたそれは俺の持っているサッカーボールとははるかに異質なものであった。満面の笑みを浮かべたラウンド髭の生首だ。
「一緒にやろうぜぇぇえい」
 俺は胸で受け止めることを躊躇い、咄嗟にそいつを両手で挟み込んだ。
「よ」
 生首が声を出すと同時に、ベンチに座る首のない身体が手を挙げて振り返る。反射的に生首をベンチへ放り投げた。すると、身体は立ち上がり、そいつを胸でワントラップ、2、3度リフティングをしてから首に装着した。3人の歓声が沸き起こる。
 どういうことだ。新手のマジシャンか。貧乏だったサッカースターが幼少の頃にグレープフルーツでリフティングの練習をしていたという話を聞いたことがある。生首でリフティングをするやつなんて聞いたことがない。唖然としたまま声が出ない。
「あ、君、サッカーボール持ってんの?」
 男は顔についた泥を払って首を回す。そして、マスクを装着すると3人に手を振った。
「じゃ、遊び終わったら、しっかり手洗いとうがいをするんだぞ」
 俺の肩を小さくたたいて、何故かウィンクを1つ。公園を後にした。