文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

パチスロ青春記その2(もんぜん)

 何を売ろうかとずっと考えていた。ワンピースとバキなら5000円ぐらいになるだろう。あとはオアシスとグリーンデイとaikoのCDを売れば1万円に届く。すべて宝物だが仕方がない。今の持ち金と合わせれば新装開店で勝負できる。

 今日の新装開店は15時スタート。現在は朝の7時。10人ぐらい既に並んでいる。最後尾について体育座りをした。いざとなったときに売るための物が入ったリュックを背もたれ代わりにする。夏の日差しは強く、後頭部がひりひりした。頭にタオルを乗せて、パチスロ必勝本を開き、木村魚拓が出てくるページを読む。木村魚拓は今月も負けていて楽しい。大好きだ。

 その当時のパチスロ攻略雑誌は「パチスロ必勝ガイド」と「パチスロ必勝本」の二種類があった。しのけんと呼ばれるカリスマプロスロッターが連載しているのがパチスロ必勝ガイド、アニかつや中武一日御膳などのバラエティーに富んだライターが活躍しているのがパチスロ必勝本。木村魚拓はパチスロ必勝本のライターだ。「未練打ち」という、パチスロで負けてそのまま家に帰るのが嫌で閉店間際の別の店に打ちに行き、もっと負けるというコーナーを連載していた。
 
 僕はパチスロのライターになりたかった。ライター名も決めていた。シックスセンス坂下。第六感で出る台を見抜く男。ゆくゆくはカリスマライターになってタワマンに住む。それがイッツマイライフ!と本気で思っていた。

「お母さん、この人たち何してるの?」

 通りすがりの子どもが僕を指差してお母さんに聞いた。逆光で子どもが神様のように見える。朝から頑張って並んでいる僕たちを励ましにきた幸運の使者かもしれない。そんなことを考えているとお母さんの金切り声が響いた。

「見ちゃいけません!」

 見ちゃいけません……。見ちゃいけません……。見ちゃいけません……。

 最初は意味がわからず、脳内で復唱した。言葉がうまく咀嚼できない。

 どうやら僕は子どもが見ちゃいけない存在らしい。急に全身が腐ったような気がして、慌ててタバコを探した。神様に見えた子どもはお母さんに手を引かれて去っていく。タバコは結局見つからなくて、落ちていたシケモクを拾って、じっと眺めた。

 その日、持ち金はすべてなくなった。宝物の漫画やCDも手放した。心がどこかへ飛んでいって取り返せなくなってしまった。

 無性に彼女が欲しくなった。人肌に飢えていた。どうすれば恋ができるのだろうか。とりあえず冷蔵庫にあった鶏もも肉に顔をうずめて、この気持ちをやり過ごした。ああ、彼女が欲しい。