文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

ネコと私の威嚇コミュニケーション(カズマンヌ)

指先をネコの鼻に近づけて「チュチュチュチュ」とか言うやつ。
 
「チュチュチュチュ」ってなんだよ。ネコの言葉に寄せるなら「ニャア」とか「ンワァ」じゃないのか。
私の場合、独り言すら恥ずかしく思うので動物相手に話しかけることも苦手だ。
猫もどちらかと言えば嫌いだったし、見つけても撫でることはない。猫嫌いの祖母が「あいつら(猫)は感謝の心が欠けている」とボヤけば、そうだそうだと心の中で相槌を打った。
 
ある日、家に帰ると玄関に茶トラの子ネコがいた。たぶん祖母が適当に外に置いたであろう煎餅のアルミ箱に入っていて、私を見つめて「ニャア」と鳴いた。大きさは食パン一斤ぐらいだろうか。目はタピオカのように潤んでいて、垂れ目だ。
 
「かわいい」
生まれて初めてネコにそう思った。
まるで「かわいいぼくを撫でておくれ」と言っているようだった。愛でたいという気持ちが急に溢れ出して、どうしていいか分からなくなった。いや、どうしなくてもいいはずなのだが、溢れた気持ちは何か表現せずにはいられなくなった。これが母性とか父性と言われるやつだろうか。
 
「チュチュチュチュ」
 
私は思わずそう口にしてしまった。そして指を子ネコの鼻に近づけていた。人はあまりにも無垢でか弱い存在を前にすると、自分でも思いがけない行動をとるのだろうか。子ネコもまた、私と心を通わせたいはずだろう。私の指がどんどん子ネコに近づく。
 
「…シャー!」
 
その見た目からは想像しがたい、寄生獣のような声に思わず指を引っ込めた。子ネコはその小さな顔が裂けんばかりに口を広げてきた。歯茎はむき出し、並んだ歯はミンティアを一砕きしたほどの大きさだったが、その威嚇に怯えた私は逃げるように家に入り、布団にくるまった。
心を通わせれられると思ってただけにショックだった。何より「チュチュチュチュ」と言ったことが、猛烈に恥ずかしくなった。この経験によって、ネコへの苦手意識はより強くなった。
 
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あの子ネコの威嚇事件から数年。
私は今ネコと暮らしている。ネコの愛嬌ある一面を見て、実はツンデレなんだと知った。それからはもう超デレデレだ。「チュチュチュチュ」どころじゃなく、「チューチューチュー」と何か吸引するような音を立てながら、ネコの横腹あたりに顔をうずめて、匂いをこれでもかというほど嗅がせていただいている。ほんのり食パンの匂いがする。ちなみにネコの種類は茶トラだ。
 
かなり溺愛しているが、ネコが敷布団にシッコしようとしたとき、私は「シャー!」と寄生獣のような威嚇している。