私は犯人に指定されたジャージを着て駅に来た。
6歳の息子が誘拐されたのだ。犯人の要求は1億円とジャージを着てこの無人駅に来いとのことだった。ジャージに関しては有名ブランドではないがロゴが入ってて足首のところがキュッと締まり、くるぶしの辺りにチャックがついている派手な色のジャージを着て来いとのこと。あと分かりやすいように笛も忘れるなよ、と言い残し電話は切れてしまった。私は慌てて近所のスポーツ用品店に行きジャージと1億円を入れるカバンを買った。カバンは本来バレーボールを何個か入れるカバンらしく、おかげで外見のバレー部感がすごい出てしまった。これが犯人の狙いなのだろうか?
笛に関しては詳しく聞けなかったのでひと通りの笛は用意した。審判の笛、縦笛、横笛、土笛、とりあえずカバンに入れた。指示があれば指示された笛で吹くだけだ。
犯人からの連絡を待ちながらスマホで「パパさんバレー」と検索していると電車が来た。これに犯人が乗っていて身代金を取りに来るのだろうか。
2両編成の電車は数人降ろすとすぐに発車した。
改札から高校生が2人、おばあさんが1人出てきた。
そのあとに出てきた男が異様にでかい。
しかもジャージ上下着ている。
川合俊一だ。
私は一瞬、川合と目が合った。
川合はこのカバンにバレーボールが入っていないと気づいたのか、少し笑ったような顔をして通り過ぎていった。