がっくりと肩を落とした友人に連れられて、
「肩、ないなぁ」
「どこに落としたんやろ」
甲子園は明日に迫っている。
四番でエースの友人が落とした肩を探し出さなくては、
「おっ! あったで!」
まだ青いススキに腰まで埋もれた友人が声を上げた。
「ほんまか!」
僕は駆け足で声の方へ向かった。しかし肩は見当たらない。
代わりに友人の足元には『がっくり』が転がっていた。
「っておい、見つけたんはがっくりの方かい」
僕は友人の肩に突っ込みを入れようとして、空振りした。
友人は草むらに落ちたがっくりを器用に口で拾い上げると、
しかし『がっくり』と『肩』を落とした友人は本当に馬鹿だ。
僕は溜息をついて、
「肩は誰かが拾ったんちゃう? 警察行って見ようや」
「無駄や。肩なんて一日に何百個も届けられてるやろうし、
悔しさに震える友人。
「……なあ、元気だしいや」
慰めようと友人の肩に置こうとした僕の手は、また空を切った。
僕は行き場を失い宙を彷徨っていた手で袖をまくり、
日に焼けた肩には、九つの丸い跡が薄く浮かんでいた。
「肩に名前、書いてなかったん?」
「名前書く奴なんかおるらんやろ」
その時、僕は閃いた。
自分の肩に残る判子注射の跡を友人に見せながら、
「なあ、判子注射ってあるやん?」
「それがどうしてん」
「あれが自分の名前の判子やったら、
「ほんまそれ。医療現場の怠慢や」
「シャチハタでもええから、なんとかならんかったんかな」
「シャチハタはあかんやろ。ちゃんとしたハンコやないと」
「え、なんで?」
「そら、大事な身体やさかい。
「ほな、家紋とかどない? なんか格好ええやん」
「でも自分の家紋、知らんしなぁ」
「……家紋。嘉門達夫やったら知ってるんやけどなぁ」
「しょうもな」
途方に暮れた僕達は空を見上げ、
それから河川敷をもう一往復して、
事態を知った監督は天にも昇りそうなほど肩を怒らせて僕達を叱咤
――翌日。
快晴の甲子園のマウンドに、友人は肩を落としたまま立っていた。
結果はもちろんボロ負け。
球界注目の大エースも、肩が無くては形無しだった。