文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

作文

井上さんの失恋のコンポート(紅井りんご)

麻理子は嗚咽した。 人生で三十回目の誕生日を迎える矢先、二年ほど交際していた恋人の陽平から突然別れを告げられたのだ。それもLINEの長文で一方的に。 シンクロするように音も無く降り出した雨が、夜の窓に曲線を描いている。 明日は土曜日。誕生日が平日…

やさしいいいとも(葱山紫蘇子)

「タモさん、お久しぶりです。」 「久しぶりだね〜。髪切った?」 「あ、はい。だいぶ前にですけど。」 「それ、流行ってるよね〜、なんだっけ?インナーカラー?」 「はい。チェリーレッドを入れてみたんです。」 「いいねー、似合ってるよ。(客席に向か…

ゴールドブレンド(井沢)

「ゴールドブレンドの詰め替えを買ってこいと言ったよな」「はい」「お前が買ってきたのは何だ?」「ゴールドブレンドです」「ゴールドブレンドの“瓶”な」うわ、いやな空気になった。また仕様もないことで佐々木と代々木が揉め始めた。「じゃあ私はこのへん…

ストロングゼロ(puzzzle)

昔、飛び降り自殺って地面に近づくほど体感時間が指数関数的に伸びて、アスファルトと額すれすれの時間が永遠につづくのではないだろうかと思っていた。 案の定、目の前にはアスファルトがある。俺は腕を組んで唇をとがらせる。俺の解釈する世界は全てが凍て…

本日も晴天なり~人生食べある記~(蕎麦編)(伊勢崎おかめ)

レポート第38弾 お久しぶりです(*^^)v♪ 小生、連日の猛暑&ビアパーティのお誘いで、少々胃腸がお疲れサン気味ではございますが、突撃レポしちゃいますゾ~(笑) 本日は、芦山田2丁目にありますコチラ「手打ち蕎麦 はせ川」さんにお邪魔。地味ながらも威…

四諸茶々村拾遺(インターネットウミウシ)

その日は四諸茶々(しもろちゃっちゃ)の辺りで長雨が続いておったで、すぐ隣の五諸茶々(ごもろちゃっちゃ)の畑の様子を見に行こう思いまして、独りで山ァ行きました。 四諸の人らは、五諸の者とは仲悪うしとりました。むしろ二諸茶々(にもろちゃっちゃ)の者…

先攻ロックンロール(坂上田村麻呂の従兄弟)

先に音を鳴らした方が勝ち。そんな勝負に勝ちようがない。僕のバンド生命は実に短かった。いや、僕が特別というわけではなく、どのバンドも売れないのが普通。売れない原因は単純だ。新しい曲を作れないから。曲を作る才能がないという意味ではない。どんな…

60,61/101(xissa)

叶わないまたねがポケットの中に/甘えていますが知らない猫です

キツネがはなし(七寒六温)

もう、この話を誰かにするのはやめようと思っていたけれど、やっぱり結婚するんなら話しておくべきだよね…… 僕は来月結婚を予定している。結婚とは僕が思うに、苗字以外にも様々なことを共有することだと思う。それは、知られたくないような性癖や過去の過ち…

バンドやろうぜ!そろそろ、ホントに(哲ロマ)

またコレだよ。なんでこうなる。この雰囲気。スタジオ入る前から予感はあった。あ、なんか今日ダメな日だなっていう予感。不機嫌?いや違う。全然普通。普通に集まって時間までタバコ吸ってコーヒー飲んでバカ言って時間来てスタジオ入った。いつも通り。週…

罪(坂上田村麻呂の従兄弟)

あるヒューマノイド(もしくは人間)が、ある人間(もしくはヒューマノイド)を殺しました。 *** 数年前、人間は、人間のような機能を備えたロボット『ヒューマノイド』の開発に成功した。人間の生活を便利にするために、という目的で開発されたものだった。…

陰謀クッキング(伊勢崎おかめ)

今日はね、じゃがいもと玉ねぎとにんじん、そして牛肉を用意してるんだよね。そう、「あの料理」を作るんだよね。 他の具材は要らないんだよね。選別は、もう始まってるんだよね。 ゾルタクスゼイアン 野菜はね、皮をむいて、適当に切る。 まず鍋でお肉を炒…

老婦人は新幹線で飴を配る(葱山紫蘇子)

あれは20世紀の終わりのこと、私は長距離恋愛をしていた。 私は大阪で実家暮らし、彼は東京で一人暮らし。バイトしてお金がたまったら、私が何日か遊びに行く。数日間の同棲生活を楽しんで、私は大阪へ帰る。たいてい夜行バスで行く。JR大阪駅前のバス乗り場…

58,59/101(xissa)

満月これは土の匂い/自意識前髪で隠す

無重力の夕方(井沢)

いつも遊んでいた子はいるはずのない子だった。母が近所へ出かけたりご飯の支度で不在になり、さて残った子供たち二人で何をしたものかという折にいつもその子は現れた。金髪のバービー人形に母の手作りのニット服を着せたら「じゃあこのオーロラ色のスカー…

交響曲第17番『うろおぼえ』(インターネットウミウシ)

拍手が止んだ。指揮者がこちらを向き、穏やかな顔つきから真剣な目つきに変わる。ひと呼吸おくと、指揮者がタクトを振る。それに合わせて、楽団員が一斉に音を鳴らす。私以外は。私はいつもこの冒頭部分を聞くと、足先だけ小さく踊ってしまう。イスに座った…

死神・笹岡 量二 (七寒六温)

人生に疲れ、もう死んでもいいかななんて思って屋上に来た。多分 ここから飛べはさすがに死ぬんではなかろうか……だが今日は死にに来たわけではなく、ただの下見。まだ最後の晩餐も決めてないし、どうせ死ぬならラストチャンスとして買った宝くじの結果発表も…

落ちる(puzzzle)

こんなところで足を滑らせたらそりゃ誰だって落ちる。足を振り上げて尻から落ちる。頭が重いからすぐに真っ逆さま。散々尻が大きいと笑われてきたけれど、ほら見なさい。でも、尻が重いと言われてきたわけではない。大きくて軽いからすぐに逆さまになるのか…

3円 (にかしど)

(まえがき) 『バスガイドは本日も、名前を申し遅れようと決めている。』 僕が勝手におもうバスガイドの生態。バスガイドはよく「申し遅れました、わたくしバスガイドの○○でございます」という常套句を、右手の景色を見せた後に口にする。何年間も同じ業務を…

匂いマップ(もんぜん)

以前、妻が道案内をしてくれたときに「犬の匂いがしたら左」と言われて衝撃を受けたことがありました。 それ以来、匂いで道案内ができる「全国匂いマップ」を作るのが夢です。 今回はその第一弾として、東京のJR荻窪駅から「はらっぱ公園」という公園までの…

順番の問題(紀野珍)

出し抜けに、洋式便器を見下ろしていた。場面はそこから始まった。もちろん夢だとすぐに理解した。 便器があるということはトイレの個室で、俺は用を足しに来たのだろう。 小用だ、と悟ったつぎの瞬間には身体が動いていた。ゲームのコマンドを選択するよう…

この町から明太マヨが消えたなら (七寒六温)

「例えばだけどさ、コンビニに行って自分のお目当てのおにぎりが売り切れていたとする。その場合 どうする?」 わざわざ電話してきたと思えば、こんなくだらない話。親友の大石はこういうどうでもいい質問をするためにわざわざ電話してくる。 このおにぎりの…

56,57/101(xissa)

海の上風ばかり/切った裾も貰う

そんなオファーは受けない(井沢)

「いらっしゃいませ。お客様は何個ラスケイジですか?」 「はい?」 「失礼しました。お客様は何ラスケイジですか?」 「ニコ…ラスケイジですけど。」 語尾を濁らすケイジ 「ありがとうございます。ツーラスケイジ入りまーす。」 「え、あの、ちょっと。」 …

距離感(伊勢崎おかめ)

私には、現在、小学生の息子がいる。やむを得ず、2度もPTA関係の役員になってしまい、他の役員である保護者(主に母親)と連絡を取らなければならないことがあった。その際、メールやLINEを使用するのだが、相手がどういう人だかよくわからないまま…

セウネ(インターネットウミウシ)

午後8時。駅前の喧騒を抜けるとしなびた雑居ビルが立ち並ぶ。 くすんだ看板に書かれた『温泉 セウネ メレセンスパ』の文字を見ると、それだけでホッとする。 エレベーターに乗り、『10F』のボタンを押す。 乗り合わせた3人もみな、同じ階を目指しているのか…

蟹の内輪差(にかしど)

(まえがき) 忙しさのあまり蟹の並ぶ列に横入りした。忙しさのあまり蟹の不器用さに薄笑いを浮かべた。忙しさのあまり蟹を剥かずに食べた。忙しさのあまり前しか見られなかった。 そんな激動の日々から一変した。方々から、感染症拡大防止のため外出を控える…

フレーズ(puzzzle)

「湿った黒い鼻が犬らしさであるように、後肢の関節の向きが牛らしさであるように、僕は君のことを」 その先の言葉がどうしても出てこなかった。 「あれは足根関節と言って、四肢動物において私たちの足首に相当する部分なの」 君は大抵のことを知っていた。…

死んだおばあちゃんの夢(さくさく)

「死んだおばあちゃんが、夢に出てきてくれなかった、って話なんだけどね」と言いながら、彼女……B子さんは、ホットココアにグラニュー糖を入れてかき混ぜた。 「いや、出てこなかったんかい」 そこは、死んだおばあちゃんが夢に出てきて、あれこれ言われる…

GET WILD'99(寂寥)

田植え前の農免道路。職質される大学生。GET WILD'99。 1999年大学4年生の春。周囲が企業説明会や誰それが既に内々定をとったなどと騒いでいるこの時期、単位がギリギリだった僕は1年生に交じって必修科目を受けているような人間だった。応募活動などもちろ…