文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

2020-05-01から1日間の記事一覧

セウネ(インターネットウミウシ)

午後8時。駅前の喧騒を抜けるとしなびた雑居ビルが立ち並ぶ。 くすんだ看板に書かれた『温泉 セウネ メレセンスパ』の文字を見ると、それだけでホッとする。 エレベーターに乗り、『10F』のボタンを押す。 乗り合わせた3人もみな、同じ階を目指しているのか…

蟹の内輪差(にかしど)

(まえがき) 忙しさのあまり蟹の並ぶ列に横入りした。忙しさのあまり蟹の不器用さに薄笑いを浮かべた。忙しさのあまり蟹を剥かずに食べた。忙しさのあまり前しか見られなかった。 そんな激動の日々から一変した。方々から、感染症拡大防止のため外出を控える…

フレーズ(puzzzle)

「湿った黒い鼻が犬らしさであるように、後肢の関節の向きが牛らしさであるように、僕は君のことを」 その先の言葉がどうしても出てこなかった。 「あれは足根関節と言って、四肢動物において私たちの足首に相当する部分なの」 君は大抵のことを知っていた。…

死んだおばあちゃんの夢(さくさく)

「死んだおばあちゃんが、夢に出てきてくれなかった、って話なんだけどね」と言いながら、彼女……B子さんは、ホットココアにグラニュー糖を入れてかき混ぜた。 「いや、出てこなかったんかい」 そこは、死んだおばあちゃんが夢に出てきて、あれこれ言われる…

GET WILD'99(寂寥)

田植え前の農免道路。職質される大学生。GET WILD'99。 1999年大学4年生の春。周囲が企業説明会や誰それが既に内々定をとったなどと騒いでいるこの時期、単位がギリギリだった僕は1年生に交じって必修科目を受けているような人間だった。応募活動などもちろ…