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書き出し自選・ろっさんの5作品(ろっさん)

文芸ヌーに書くなんて恐れ多い。とずっと読者専門でいたかったのに執筆する日が来てしまい、半泣きでキーボードを打っている、いや打たされている、書き出し自選のバトンをトミ子さんから受け取ったろっさんというHNの者です。

以前にトミ子さんからの「腸に内視鏡を入れられるのが怖い」という嘆きのツイートを読んで、潰瘍性大腸炎を患い大腸カメラを三度も経験している身として、救いの手を差し伸べるべくDMに「心配しないで大丈夫」とアドバイスを送ってから、トミ子さんとは書き出し小説以外でもカメ友(大腸)として一気に親密な仲になったこともあり、次の書き出し自選に指名していただいたようです。でも投稿を始めてまだ3年目で、書籍化された単行本に自作は載ってないし、総採用数が50作にも満たず、連続採用記録が3回までという、書き出し小説の世界にそれほど貢献できていない自分が担当して本当にいいのでしょうか。恐縮しきりです。なので、この自選記事は〝そんなに面白くはならないと思います〟と前もって断りを入れておきたい所存です。

てな具合で充分に謙りすぎるほど謙っておいた上で、とにかく自選を涙目ながらに書き始めていきます。

 

これからイナバウアーの女が小指の上を通過する。

<第95回 規定部門:拷問>

初投稿にしての初採用作品です。そもそも自分は、選者の天久さんも担当されている週刊SPA!の読者投稿ページ「バカはサイレンで泣く(通称:バカサイ)」内の「イマジン」という〝想像したら面白いネタ〟を集めるコーナーに投稿していたのですが、その中で気に入っているもののボツ作となってしまっていた【舞うフィギュアスケーターの靴の刃で組員の小指を詰める儀式】というネタを供養する目的で(その時ちょうど規定部門のモチーフが『拷問』だったこともあり)書き出し小説用に推敲してダメ元で投稿してみたのが、結果として書き出し小説へのデビューとなりました。その成果を機に「趣味は何ですか?」と質問された場合に「バカサイ投稿です」という返答よりも「書き出し小説です」と答えられた方が、格段にアカデミックな好印象を与えるだろうという不純な動機でバカサイから書き出し小説へとシフトチェンジし、ずるずると底なしの書き出し沼へとハマってしまう羽目に陥るのでした。ちなみにこの書き出しは別にどの指だろうが構わないのに〝小指〟に限定されている理由は、組の儀式からの名残です。

 

死刑執行日の蟹座は7位だった。

<第98回 自由部門>

投稿すれば順調に採用が続き調子に乗っている頃の作品です。書き出し小説界の重鎮であるTOKUNAGAさんから「占いの順位に何の意味も持たせない所が実に書き出し小説らしい」と褒めていただいたものの「順位よりも何座にするかで悩んだのに」と賛辞を素直に受け取りもせず、趣味でサイトに短編ミステリーなどをアップしていたぐるりんというHNの友人に先輩面して書き出し小説を勧めてみたり、書き出し小説に採用される秘訣を教えてほしいと相談してきた上司へはカウンセラー的に対応して、この頃の自分は完全なる天狗でした。まさかこのすぐ後に大スランプ期がやって来るとは露ほど知らずに。最終選考通過者にも残らない不採用が半年も続き、大量投稿するぐるりんからは採用回数を抜かれて、我が創作に対する考えの甘さを思い知るに至り、長く伸びすぎた鼻は根元からポキンと折れました。思い出すだけで、恥ずかしいやら、情けないやら。ところで現在のぐるりんはというと、書き出し小説の世界からは遠ざかり、怪談朗読専門のYouTuber宛に自作怪談を送っては読まれたりしています。いつか是非ぐるりんには文芸ヌーで短編ミステリー怪談などを書いてほしいと秘かに期待を寄せています。 

 

網戸泥棒は走りにくそうに逃げている。

<第123回 規定部門:網戸>

スランプ期は抜けて再び採用が続くようになってから一つの夢を思い描くようになりました。大竹まことさんがパーソナリティを務める文化放送ゴールデンラジオ!の大竹紳士交友録というコーナーでレギュラーの天久さんがたまに書き出し小説を幾つか披露するのですが、シティボーイズを敬愛する自分は是非ともその場で自作を読んでもらいたいと切実に願うようになり、遂に叶ったのが本作でした。前置きとして網戸をモチーフに選んだ理由を「もう規定部門のネタも尽きまして」と戯ける天久さんから常連作家さんの名前と作品が読まれ始めて〝次か?次か?〟とドキドキに心拍数が上がります。大竹さんの網戸の蘊蓄で少し脱線し、ポッドキャストの残り時間も僅かになった最後の最後で「あと一個、ろっさんの」と自作が紹介されました。スタジオにいる誰もが泥棒の間抜けな逃げ姿を想像した為かコンマ数秒の間があった後に、光浦さんの笑い声と「あれは走りづらいからね」と大竹さんからのフォローをいただき、憧れの人と間接的ながらも繋がれたことで心は多幸感に満ち溢れました。それはもう、嬉し涙とともにたった十秒間の音声を何度リピートしたことか。

 

「我が家もパルムドールだな」

<第160回 規定部門:2018年>

ご存知の通り、昨年の第71回カンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを獲得した是枝裕和監督の『万引き家族』をモチーフに扱った書き出しです。父親が呟いた台詞の貧乏臭さが哀愁の笑いを誘うとともに、映画の世界に限らず現実でも同じような境遇で生きる一家も存在するのではないかと、大きな格差を生んだ日本の実態を知らしめた上で、現政権に対する憤りを一言に込めた風刺作品にも深読みできます。そして今年のパルムドールはポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』という前年に続いて家族をテーマにした韓国映画が受賞しました。ということは書き出しを【우리집도 황금 종려상 이구나】と韓国語に翻訳(←自動翻訳なので自信ナシ)しても成立し、同じ一文でも韓国版ならではの違った意味合いとして作品を捉えられます。歴史を更に遡れば、第69回のパルムドールは名匠ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』という母子家庭と老人の交流を描いたイギリス映画が獲ったので、英訳すれば【My home is also a Palme d'Or.】となり、また日本とも韓国とも異なるイギリス版ならではの個性を放ちます。この書き出しに限っては、言葉の壁を越えて、各々の国の社会を映す鏡にも成り得るのです。

 

私は働いてない。白衣は着てるだけ。

<第180回 自由部門>

最後は採用されたてホヤホヤの最新作を。ある朝、出勤中にガードマンさんが立ち尽くしたままボーッとしている光景に出会しました。工事現場を警備すべき人が完全に仕事をサボっている。思わず「ガードマンのコスプレしてるだけやん」と通りすがりに舌打ちしてしまいました。そんな日常のエピソードを発端に紆余曲折の推敲を経て、この書き出しは完成にまで至りました。というように最近では日頃から書き出し小説のアイデアの種が落ちていないものかと、右折する軽トラが出すウィンカーのタイミングや、おばさんが操作するパズドラの不器用さにまで、常に張り巡らせている書き出しアンテナが反応します。もう仕事以外の時間は脳が書き出し小説に支配されてしまっていて、睡眠中に至っては、文節の語順を入れ替えたり、てにをはを変換するなど、白地に文字だけの夢を見てしまうほどの重症です。しかし何故そこまでして書き出し小説に夢中になるのかと問われれば、答えは〝面白い人たちの仲間に入りたい〟という一心に尽きます。書き出す阿呆に、読む阿呆、同じ阿呆なら、書き出さなきゃ損々。書き出し小説という現在で最も面白いコンテンツの傍観者だけでいたくはないのです。だから採用を目指して必死になる。今回、自選するにあたって過去の採用作品のリストを改めて振り返ってみれば「凡人が面白くなろうとする努力の軌跡」に思え、自惚れて感極まってしまいました。これから先も面白くあろうと、試行錯誤の孤軍奮闘、または空回りし続けるつもりですので、どうか引き続き皆さん宜しくお願い致します。

 

と、やっぱりそんなに面白くない自選記事になってしまったかと思います。所々に嘘泣きも入ってたし。

そんな自分の後は、菅原 aka $.U.Z.Y.さんにバトンを託したいと思います。第168回の規定部門『スージー菅原の誰も得しない名言集』で拝見した顔写真を思い出して「あの菅原 aka $.U.Z.Y.さんなら絶対に自選のバトンを快諾してくれる!」と信じたからです。二つ返事でOKしていただいた菅原 aka $.U.Z.Y.さんのメガネは自分と同型のフレームという共通点もありました。幾つも名作を生んでいる菅原 aka $.U.Z.Y.さんの選ぶ5作品に興味津々です。それでは菅原 aka $.U.Z.Y.さん、自選の引き継ぎを宜しくお頼み申し上げます。