文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

パチスロ青春記(もんぜん)

 自転車のべダルを必死に漕いだ。早く着きたいという気持ちがスピードへ変わっていく。心地よい風に幸運が訪れる予感がした。

 着いた。ウエスタソ西葛西店。朝の7時にも関わらず、既に10人ぐらいの人が並んでいた。たかがパチスロのために全力を尽くす僕たちの姿は滑稽に見えるだろう。上等だ。笑いたければ笑え。

 パチスロこそが僕の青春だった。

「クランキーコンドルはさ、絶対に勝てる台なんだよ!」
 ヨダレが生クリームに変わる体質の友人が最大級の興奮状態でそう語った。語っている間、口の両端で生クリームは泡立ち、やがてホイップクリームになった。友人は今からパチンコ屋に行こうと言う。

 その頃の僕は人見知りについて哲学する毎日を送っていた。なぜ我は人見知りという重い十字架を背負って生まれてきたのか。そしてついに人見知りは真っ当に働くべきじゃないという悟りを開いた。人見知りがいても邪魔なだけ。僕が働かないことが世界のためになるのだ。
 そんな折、友人が口で生クリームを泡立てながらパチスロをやれと言うのである。これはパチスロで金を稼げという天のお告げなのかもしれない。友人についていくことにした。

 薄暗い店内は煙草の煙で充満していて、霧の街ロンドンを想像させた。ちょうど二台空いていたので友人と隣同士で座る。台の右に両替機のようなものが付いている。友人はそこに千円を入れろという。恐る恐る千円を入れる。メダルが台皿に落ちてきて、ガシャーンという大きな音がなった。友人はメダルのことを夢と呼んだ。僕ははじめて夢が産まれた瞬間を見た。

 夢をパチスロ台に三枚入れて、レバーを引いた。三列のリールが回りだす。左上に青七を止めろと友達は言う。絵柄なんて何も見えない。リールが回る速度に合わせてヘッドバンキングすれば見えるらしい。それが本当だとすれば、パチスロを打つ人はみんなパンクロッカーだ。僕は台の前でヘッドバンキングをした。ヘッドバンキングしながらボタンを押した。唐突に宇宙はこの世に存在するんだなと思った。

 結果として、この日三万円儲けた。適当にボタンを押しているうちに、上段に青七が揃い、メダルがジャラジャラと出てくる。青七が揃うたびに友人は「青テン」と叫ぶ。青テン。セックスに近いその響きは・・・今思うと全然近くないけれど、僕の童貞心を刺激した。友人は逆に三万円ぐらい損をした。落ち込んだ友人は「今日はゴミを拾いながら帰る」などと訳のわからないことを繰り返しつぶやいていた。

 この後、僕はパチスロにどっぷりハマっていった。そしてパチンコ屋で様々な人に出会った。何度もパチンコ屋で倒れて救急車で運ばれている小暮さん。大当たりすると客全員にケーキを買ってくる相田さん。常に勝っていて、みんなから先生と呼ばれている渡久地さん。奥さんがやってくると逃げ出す森岡さん。マルチ商法にハマっている大岡さん。彼らそれぞれにドラマがあった。そして、のちに彼等が世界を救うことになるのだが・・・それはまた別のお話。

注:ギャンブルはほどほどにしましょうね