文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

鳩(ボーフラ)

一人暮らしを始めて半年になる。夏休みが終わり、大学が始まる少し前の、残暑の九月である。僕は、インターネットで取り寄せている鳩の餌を持って、公園に行った。鳩に餌をやり続けて、三ヵ月になる。

この公園に鳩が居る事は以前から知っている。僕はローテーションで三つの公園で餌を撒いている。今日はこの公園の日だ。その日は、一匹だけ鳩が居た。小さな寂れた公園なので、人は居ない。僕は、鳩の餌を開封して、餌を撒いてみた。

鳩は、首を上下に振りつつ、餌に早足で近付いていって、餌を食べていった。クックルーと鳴きながら、餌を啄んでいく。そのうち、二羽、三羽と増えていく。ジャングルジムの横の樹から、鳩が次々と舞い降りて、餌を啄んでいく。

「中村君!何やってるの!」

僕が慌てて振り返ると、誰も居なかった。確かに、高校の時の、怖い風紀委員長の声が聞こえた気がした。鳩が、クックルー、グルッポーと鳴いている。風紀委員長は何をやっているのだろうか。確か、有名な女子大に合格して、今は、バリバリやっているとか…。くそ。くそ。くそが。

風紀委員長が!劇団部の大部屋俳優と、乳繰りあっているのを知っているのは僕だけだ!くそ!くそ!くそがっ。

僕は、鳩に駆け寄って、鳩を追い払った。鳩は、距離を取りつつも、急な僕の豹変ぶりを確かめるかのように、こちらを眺めていた。僕は、鳩の餌を全部ぶちまけて、アパートに帰った。カップラーメンを食べて、寝た。

真夜中に目覚めて、今、公園はどうなっているだろう?と気になり、出かけた。公園には餌は何も落ちておらず、いや、少し、残っていたが、水が撒かれた跡があった。誰かが掃除したのだろう、と思った。僕は、僕の中の何かの壁が崩れて、砦に誰か入ってきた気がした。

今まで、こんな風に取り乱して、餌をやった事はなかった。誰にも知られぬよう、僕は、僕と鳩の関係性を築いてきた。それが、今日、簡単に壊された。注意された事もないではなかった。不意に公園に訪れた人に注意された事はあった。でも、風紀委員長が入ってきてしまった。もう駄目かも知れない。

あと一週間で、授業が始まる。今夜から、眠れなくなりそうな気がした。これは、僕が発病する一か月前の出来事だった。三か月後、僕は、精神病棟でこの日記を書くのである。