文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

亀と白ギャルと私(伊勢崎おかめ)

私の家は、田と畑に囲まれている。そして、野球場が10個は入るであろう巨大な池が近くにある。毎年、5月から7月頃にかけて、その池から亀が上がってくる。毎シーズン10匹前後は目撃する。体長25cm程のアカミミガメである。彼らは外来種であるので、在来種保護の観点からすれば排除しても構わないのかもしれないが、車に轢きつぶされぺちゃんこになった無残な姿の亀を見るといたたまれなくなるので、亀を見つけると、息子と一緒に「危ないからもう上がってくるんじゃないよ。あばよ~!」などと言いながら、ほうきで水田に押し戻すことにしている。

 

先週の土曜日の夕方、自宅近くの道路上のど真ん中で立ち止まっている亀を発見した。家からほうきを持ってきて、カーリングよろしくゴロゴロとその亀を水田に押し戻そうとしていたところ、背後から「うわぁ、亀?」と声をかけられた。見ると、うちのような田舎ではあまり見かけない派手な白ギャルだった。「そう、亀」と答えると白ギャルは、「めっちゃおっきいやん。ウケる~!」「これほんまに生きてんの?」「あっ、顔ひっこめた!」「危なくないん?噛む?」「うわっ、いま『シャー』言うたやんな?」などと次々と話しかけてくるのだが、全てタメ口なのである。その白ギャルから見て私が同世代に見えてしまったのなら致し方ないのだが、誰がどう見ても、私はその白ギャルより年上である。初めは驚いたものの、「この子は、こんな大きな亀を見るのが初めてで興奮しちゃったのかな」等と考えると、なんだかかわいらしく思え、私もタメ口で会話をしていた。亀にほうきの穂を噛みつかれたり、「シャー」と威嚇されたりしたが、白ギャルの応援もあり、ゴロゴロと亀を水田に押し戻すことに成功し「ほら、(亀が)池のほうに帰っていくわ」と白ギャルに言おうとしたところ、いなくなっていた。「あれ、たった今までいたのに?亀を無事に水田に帰せたことを一緒に喜びたかったな…」などという謎の連帯感と虚無を残して、白ギャルは去ってしまった。

 

いつもよく見るのは、目の横に赤い線のある外来種のアカミミガメであるが、その時にいたのは、顔が真っ黒で、アカミミガメとは甲羅の色も違っていたので、持っていたスマホで調べてみたところ、体の特徴から、どうやらニホンイシガメという在来種らしいことがわかった。もしかしたら、あの白ギャルはニホンイシガメの化身で、ニホンイシガメを助けようとしていた私を見守ってくれていたのかもしれない。「ありがとう、亀の化身さん。これからも、在来種だろうが外来種だろうが、困っている亀を助けるからね」私はほうきの柄を握りしめ、そう誓った。