文芸ヌー

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書き出し自選・小夜子の5作品(小夜子)

こんにちは、小夜子です。
平成も終わりかけのいま、まさしく棚ぼた的にご指名をいただき、今回の「書き出し自選」を担当いたします。

 

 ご指名ありがとうございます。
一度は言ってみたい言葉じゃないですか?「ご指名ありがとうございます」って。普段生活しているなかで、なかなか発しない言葉だと思うのです。なかなかというか、わたしは今まで一度も言ったことがありません。言ってみたい。
どれくらい言ってみたいかというと、たとえばわたしがポケモンで、「キミに決めた!」なんて言われながらボールから出されたら、戦う相手がわたしの苦手なタイプでも、結構頑張ると思う。それくらい言ってみたい。ご指名ありがとうございます!がんばります!
でもたぶんすぐ負ける。すぐ瀕死になる。もういい!もどれ!
単純にわたしの社会性が低いだけでしょうか。みなさんは日頃から、いろいろな人に選ばれ、「キミに決めた!」ってご指名を受けているのでしょうか。うらやましい。
そんなわたしが自選してみました。

 


トップアイドルになった夢を始発待ちのホームで見ていた。
(第23回 規定部門「アイドル」)

アイドルというのはある種の偶像です。いつもぴかぴか光っていて美しく、常に正しく、誰からも愛され、決して瓦解することのない完璧な存在です。
そんな選びぬかれた完璧な存在たちのなかで、さらに選びぬかれて一番になるなどということは、もう、ある意味世界征服を果たしたようなものです。キング・オブ・キングス。コンピューター付きアイドルマシーン。そういうふうにプログラムされているやつ。偶像じゃん。
そんな世界征服を果たした夢を始発待ちのホームで見ていたようですが、恐らくグデグデに酔っ払って終電を逃し、致し方なくホームで眠りながら始発を待っていたんでしょう。アイドルとは真逆の俗物的な存在ですね。


不法投棄された死体に火をつけると、生えていた鱗は星のように燃え上がった。
(第71回 自由部門)

投稿を重ねていくなかで、キレのある面白さや豊富な想像力、並外れた言葉のチョイスセンスをお持ちの他の方々には、真っ向勝負では到底かなわないと思い知りました。ではどうするか、と考えたとき、「この一文からどう続くのか?」ということを想像してもらえるような一文なら、なんとかいけるかもしれない…と思い当たりました。というかそれが書き出し小説というものの本質な気もしますが、愚か者はそんなことにも気がつかないのです。
死体、とあるので恐らくなにかが死んでいるのでしょうが、一体なにが死んでるんだよ、という。きっとこの一文のあとになにが死んでるかとかの記述があるんでしょうが、まったく思いつきません。なにが死んでるんだよ。


イケメンを殴ったら死んだ。
(第96回 規定部門「イケメン」)

みなさんも一度は目にしたことがあるんじゃないでしょうか。「ただしイケメンに限る」。
確かにイケメンという存在は顔面だけですべてを許されているようなきらいがあります。人気のない夜道でイケメンが急に「こいつをどう思う?」とか言いながらボロンと出したとしても、もしかしたら許されてしまうかもしれません。きゃーイケメンの観音像がご開帳よ!みたいな。
そんなふうにイケメンに限って許されている事象が世の中には数多あるようですが、正直なところ、もうお前調子こくなよと。なにがイケメンに限るだと。お前だって殴ったら死ぬんだからなと。角材で思いきりぶん殴ったらお前がいくらイケメンだろうが死ぬんだからなと。
憎しみが迸っています。


自称すればわたしは何にでもなれた。
(第56回 自由部門)

ニュースでよく耳にします。「自称会社員の~」という言葉から始まる紹介を。
言われてみれば、自称すれば確かに大抵のものにはなれるよな、と虚無にまみれた思考が持ち上がりました。自称会社員、自称漫画家、自称プロレスラー、云々。警察官などは法に触れてしまうので難しいですが、実に様々なものになれそうです。自称するだけならタダですし、実績が無くても良いわけですから。あくまで自称だし。そこに他者の容認は必要ないのです。自称天才。自称美女。幸せな脳味噌です。
この一文から始まる物語では、自称銀行員や自称営業マン、自称息子などになって詐欺を働くのでしょうか。それともその詐欺行為すら自称で、本当はもっと別の何かなのでしょうか。
みなさんは自称何になりたいですか?


もうだれの葬式も思いつかない。
(第109回 自由部門)

第15回から参加して、およそ70本ほど採用していただきましたが、そのうちの約三分の一が「何かが死ぬ」「何かを殺す」ような作品で、我ながらよく殺すなあと感慨深くなってしまいました。一体いくつの葬式をあげさせてきたのやら。そりゃもうだれの葬式も思いつかないだろうな。
実際のところ、仕事や学校をどうしてもズル休みしたいとき、「身内の誰々が亡くなりましたので」みたいな言い訳、誰でも一回は使ったことがあるんじゃないかと思います。もう、休みたいからみんな殺しちゃう。キミ親戚何人いるの?みたいなレベルで殺しちゃう。殺せるものは殺しちゃう。神妙な顔して。辻斬りかよ。

 

以上の5つを自選とさせていただきます。
「書き出し」という非常に短い文章のなかで、想像力を掻き立てられたり思わず笑ってしまったり、情景がありありと浮かんできたり、そういった名文をアウトプットできる投稿者の方々には本当に畏敬の念を抱きます。年齢も性別も住む場所も考え方も違うひとたちが、ひとつのことで一緒に楽しめるのは非常に貴重な場で、良い刺激を受けています。ありがとうございます。書き出し小説、大好き(武●咲)。

次回の書き出し自選はprefabさんにお願いしたいと思います。書き出し小説のガロ枠だと個人的には認識しています。よろしくおねがいします!