文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

ミスチル (渡辺宏)

 グラマラスボディーをひっさげて女が男の部屋に入ると、まず耳が、聴き覚えのあるメロディーと歌声をキャッチした。
「これは……ミスチル?」
「そう。ミスターチルドレン」
 男が応える。ソファに浅く腰掛けて目をつむったまま。その横顔は相当なイケメンだ。
「めずらしいじゃない。アンタがクラッシックやジャズ以外を聴いてるだなんてサ」
「フフン。これでもなかなか年季の入ったミスチルリスナーなんだぜ、俺は」
「意外ねえ。国産の音楽なんかダサいって、てんから見下してるんだとばかり思ってたワ」
「アハハッ。そのお見立ては間違っちゃいない」女に向ける笑顔に邪気はなく、五十過ぎだというのにまるで少年のようだ。「ただ、ミスチルは別さ。彼らは本物のミュージシャン、アーティストだよ」
 男は立ち上がり、ご自慢のカウンターバーに向かう。女のためにカクテルを作るあいだも、ミスチルがいかにすばらしいかを滔々と語り続ける。
「すごいパッションだこと。なんだか、ちょっと妬けちゃうみたい」
「きみも聴けばいい。いっしょに愛するんなら嫉妬もなかろう?」男はウインクをひとつ決める。「熱を上げるだけの価値はあるぜ。なにしろ、あの寺山修司もミスチルを絶賛してるんだから」
「寺山修司? 嘘おっしゃいな。時代がぜんぜん違うじゃないの」
「知らないかい? マッチ擦る、つかのま海に霧ふかし、っていう短歌」
「馬鹿にしちゃって。もちろん、それくらい知ってます。だけどそれがなんだっていうのヨ」
「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし、ミスチルほどの祖国はありや——」
「ぎゃふん! それを言うなら、身捨つる、でしょうが!」

 

 

  

【参考文献】
『小説家になる! ——芥川賞・直木賞だって狙える12講』(中条省平、ちくま文庫、2013年)
『2週間で小説を書く!』(清水良典、幻冬舎新書、2013年)
『物語の体操 物語るための基礎体力を身につける6つの実践的レッスン』(大塚英志、星海社新書、2013年)
『「物語」のつくり方入門 7つのレッスン』(円山夢久、雷鳥社、2012年)
『書きあぐねている人のための小説入門 』(保坂和志、中公文庫、2008年)
『小説の書き方 小説道場・実践編』(森村誠一、角川oneテーマ21、2009年)
『即上達! 60歳からの小説の書き方全極意』(五十嵐裕治、コスモトゥーワン、2013年)
『ベストセラー小説の書き方』(ディーン・R・クーンツ、大出健訳、朝日文庫、1996年)
『書くことについて』(スティーヴン・キング、田村義進訳、2013年)
『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』(クリストファー・ボグラー、デイビッド・マッケナ、府川由美恵訳、アスキー・メディアワークス、2013年)
『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』(ブレイク・スナイダー、菊池淳子訳、フィルムアート社、2010年)
『Mr.Children詩集「優しい歌」』(Mr.Children、岩崎書店、2001年)
『桜井和寿 Mr.Childrenとの出会い』(ミスチル研究会、鹿砦社、1997年)
『日本代表とMr.Children』(宇野維正、レジー、ソル・メディア 、2018年)
「SWITCH Vol.35 No.6 THE ARTWORKS OF Mr.Children」(スイッチパブリッシング、2017年)
「MUSICA 2009年 01月号」(FACT、2009年)
「MUSICA 2015年 01月号」(バウンディ株式会社、2014年)
「ROCKIN'ON JAPAN 2001年 09月号」(ロッキングオン、2001年)
「ROCKIN'ON JAPAN 2009年 09月号」(ロッキングオン、2009年)
「ROCKIN'ON JAPAN 2016年 10月号」(ロッキングオン、2016年)
「Rolling Stone 日本版 2015年 01月号」(セブン&アイ出版、2014年)
『書を捨てよ、町へ出よう』(寺山修司、角川文庫、2004年)
『寺山修司全歌集』(寺山修司、講談社学術文庫、2011年)
『寺山修司青春歌集』(寺山修司、角川文庫、2005年)
『ポケットに名言を』(寺山修司、角川文庫、2005年)
『幸福論』(寺山修司、角川文庫、2005年)
『不思議図書館』(寺山修司、角川文庫、2005年)
『さかさま世界史 英雄伝』(寺山修司、角川文庫、2005年)
『さかさま恋愛講座 青女論』(寺山修司、角川文庫、2005年)
『誰か故郷を想はざる』(寺山修司、角川文庫、2005年)
『馬敗れて草原あり』(寺山修司、角川文庫、2005年)
『両手いっぱいの言葉——413のアフォリズム』(寺山修司、新潮文庫、1997年)
『寺山修司名言集——身捨つるほどの祖国はありや』(寺山修司、パルコエンタテインメント事業局、2003年)
『寺山修司(ちくま日本文学 6)』(寺山修司、筑摩書房、2007年)
『私という謎 寺山修司エッセイ選』(寺山修司、講談社文芸文庫、2002年)
『ひとりぼっちのあなたに・さよならの城・はだしの恋唄』(寺山修司、宇野亜喜良、新書館、2004年)
『寺山修司 時をめぐる幻想』(寺山修司、東京美術、2018年)
『詩的自叙伝——行為としての詩学』(寺山修司、詩の森文庫、2006年)
『寺山修司未発表詩集 秋たちぬ』(寺山修司、田中未知編、岩波書店、2014年)
『明日使える仕事術 笑談力——思わず微笑むダジャレ108選』(川堀泰史、ビジネス教育出版社、2016年)
『さまぁ~ずの悲しいダジャレ』(さまぁ~ず、宝島社文庫、2004年)
『いのうえさきこのだじゃれ手帖』(いのうえさきこ、コバルト文庫、2017年)
『ことば遊び』(鈴木棠三、講談社学術文庫、2009年)
『ことば遊びの楽しみ』(阿刀田高、岩波新書、2006年)
『ことば遊びの文学史』(小野恭靖、新典社選書、1999年)
『ウケる技術』(水野敬也、小林昌平、山本周嗣、新潮文庫、2007年)
『笑いと治癒力』(ノーマン・カズンズ、松田銑訳、岩波現代文庫、2001年)
『印税で1億円稼ぐ』(千田琢哉、あさ出版、2013年)
『夢の印税生活』(安藤和宏、リットーミュージック、1999年)
『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(大河内薫、若林杏樹、サンクチュアリ出版、2018年)

 

 執筆に苦心する著者を助言と辛辣な意見でもって励ましてくれた妻清美と娘真奈美に感謝を。また、公開前に本稿に目を通してくださったイソニメニ氏、あなたの「マジでやばすぎ」という言葉にすべてが救われました。この場を借りて謝意を表します。