文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

トシと鎧と豆まきと(井沢)

「お呼びしましたゲストは、今年、年ヨロイヅカでもある鎧塚トシ彦さんですどうぞ〜」
「何ヨロイヅカもたいてい僕になりません?」
「お集まりの皆さま、節分をもって暦は春!新しい一年の始まりです。さ、鎧塚さん、豆をどうぞ」
「これはまた立派な純金の升ですねえ」
2月の屋外で持つ金属製の升は氷塊のようだ。指先の感覚がなくなっていく。
「せーの」「おにわあそと」
「せーの」「ふくわあうち」
掛け声に合わせて、青空に一斉に豆が飛び交い始めた。

「なかなか白いコックコートだわ!」‬
「さすがは年ヨロイヅカ!」
「頭だ、頭を狙え!」
「ただの塚にするまでかえれま10!」
カンカン カンカン
頭に豆が集中的にぶつけられ、コック帽が山型に膨らんでいく。
「どうですか鎧塚さん、今年の鬼たちは」
「初参戦ですけど、こちらの神社は下にいる鬼たちから豆を投げられるんですね」
「すでに外にいる鬼からね」
「ね って言われましても」
「年ヨロイヅカに一番豆をぶつけた鬼が、今年一年の福鬼となるんです。福鬼は一年間悪事を働けば働くほど感謝されるんですよ」
「ほほう。鬼でもあり福でもありということですね。外にいればいいのか内にいればいいのか悩むんじゃないですか」
「休日のわたくしとて同じです」
「あ いや、そんなつもりは」
カンッ カンカンカン
「それで、僕、“年ヨロイヅカ”の役回りというのは?」
「ちょっと悪いことが重なるかもしれません。荷物が重かったり。コック帽が山型に膨らんだり。」
「まあ、ささいではありますね」
「でも、貴方のせいではありません。年ヨロイヅカは避けようがありません。だから、大きな不幸にならないようにあえて豆をぶつけてもらうのです」
「へえ」
「こまめに発散。豆で。」
「昨年の年ヨロイヅカはどなたが?」
「昨年は善し・トロイ・宝塚さんがいらして下さいました」
「よし、とろい、ヅカ…さん?」
「はい」
「芸名ですかねえ」
「トロイとのハーフってお聞きしました」
「トロイとの」
「トロイとの」
カンカンッ カカンッ カン
「宮司さん。僕ね、ここに来た時から鎧なんて着てないんですよ。見てください、いつものコックコートでしょう。なのにさっきからすごい音してるじゃないですか。いったい何の音なんです?」
カン カンッ
「おや、気付きませんか?鎧塚さん」
カンカッ カカン カン
「金と山と豆。鎧が出来上がったじゃありませんか」


これでこの地方の子供達は「鎧」という字が書けるようになったそうな。