文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

ツイン(哲ロマ)

仕事であちこちへ行く。


仕事仲間をトラックの助手席に乗せ遠くへ行く。

仕事仲間と二人で遠くのビジネスホテルに泊まる。

経費を節減するため時には男二人でツインルームに泊まる。

まあ一泊だけだし、相手がどんな人であろうが、ほとんど寝るだけの一泊だし、テキトーな弁当を食い、テキトーな発泡酒を飲み、テキトーなスマホをテキトーにいじってテキトーに充電して寝る、それだけ。


「あ、風呂、入れときますか、そろそろ」

いつだったか、その日も男二人の経費節減ツインルームでテキトーな発泡酒を飲んでいた俺はそう言われて、あ、はい、と何の気なしに返事をしてから、違和感を感じた。

風呂、入れる?

安いビジネスホテル、風呂と言ってもトイレと一緒のユニットバスだ。
風呂入れるって、ユニットバスのバスタブに?湯を?入れるの?思ったのも束の間

どどどどどどどどどどどどど

入れ始めた。

違和感を感じた自分の顔など見もせず、その人は、あっち!ぬる!あっち!あ、ちょうどいい、などと言いながらどどどどどどどどどどどどど湯を入れ始めユニットバスから戻って来た。

「すぐ溜まりますよ、運転疲れたでしょうからお先にどうぞ」

違和感を感じながらもその勢いに押され、言われるがままタオルと着替えを持ってユニットバスに入ってしまった。

難問。

超難問。

どうすれば良いのかこの状況。

大体俺は一人で泊まる時だってユニットバスのバスタブに湯なんか溜めない、シャワー派だ。いや、たまに湯を溜めて入る時もあるのだが、その時は先にささーっとシャワーを浴びて、頭もごしゃごしゃーっと洗い、身体を、この汚ならしい身体を綺麗にしてから、あっち!ぬる!あっち!と湯を溜める。そして入る。

湯が溜まった状態からのスタート。どうすれば良いのか。

お先にどうぞって、しかも自分好みの湯加減に調節して溜めた風呂をお先にどうぞって、おそらく相手は俺の後にこの自分好みの湯に浸かる気でいるのだろう。じゃあこの湯は引き継がれし湯なのか、よし、引き継がれし湯だとしよう、引き継がれし湯だとしたらどうだい、どこでこの俺の汚ならしい身体を綺麗にしたら良いんだい、湯が溜まった状態からのスタート、一体どこでこの俺の汚ならしい身体を綺麗にしたら良いんだい。

全裸で考える超難問。そして全裸で閃く。

ユニットバスの使い方、その根本的な使い方にもしかしてその人と俺、大きな違いがあるのではなかろうか。そう閃いた。
この、風呂じゃないこっち側、このトイレエリア、便器エリア、こっちのエリアも豪快に風呂として使うという考えなのではなかろうか。いや俺には考えられない使い方、そんな便器エリアでシャワーを豪快に浴びるなんて全く考えられない使い方、紙とかふにゃふにゃなるし絶対考えられない、考えられないけれども、自分が当たり前だと思っている事が他人にはギョッとされたりするもの、ユニットバスの使い方なんて何が正解かなんて分からない、もしかしたら便器エリアで豪快にシャワー浴びて身体を綺麗にするというのが大多数なのかもしれない、調べたい、スマホで今すぐ調べたい、持って入れば良かった。
でもどうしよう、もし不正解だとしたら。便器エリアで豪快にシャワーを浴びて湯に浸かって出たら、ちょ!何してんスか!便器エリアで!便器エリアびちゃびちゃじゃないっスか!みたいな、そんな反応されたらどうしよう。やっぱりダメだ、便器エリアはそんな風に使えない。

分からん。正解が分からん。だんだんと腹が立って来た。俺にこんな難問ふっかけておいてその人は、今頃部屋でテレビを見たり弁当を食ったり酒を飲んだりしてくつろいでいるのだろう。こっちは全裸で悩んでいるのに。大体なんで先に湯を入れたのさ、何にもない状態での「お先にどうぞ」だったら俺はいつも通りシャワーだけで、それだけですごくさっぱりするのに、なんで先に湯を入れたのさ。

全裸で腹を立てながら、全裸で難問を考えながら、薄っすらと着地点、妥協点は見えていた。それしかない。というか寒くなって来た。早くやろう。もうそれしか方法はない。

①まず小さな洗面台に栓をして、お湯をそこに溜める。寒い。

②そのお湯を、両手ですくい、床に、便器エリアに最小の水害で済むように、身体に静かにお湯をかける。寒い。

③②の手法を繰り返し、全身を少量のお湯で濡らしたのち、ボディソープを手のひらにワンプッシュ、泡立て、首から、静かに汚れを落としていく。寒い。

④汚れを落としたらまた②の手法でお湯を静かにかけ、静かに、首から静かに泡を落としていく。寒い。

なんの儀式なのか。日照り続きで作物の採れなくなった村の為に生贄になる準備なのか。とにかく静かに身体の汚れを落とし、多少床に飛び散った泡や水をタオルで拭き取り、そして、湯に、引き継がれし湯に浸かった。

全然さっぱりしない。なんだかもう疲れた。ぬるいし。引き継がれし湯から上がり身体を拭き、便器エリアの残りの水分を綺麗に拭き取り、ユニットバスを出て、さっぱりした表情に切り替えて言った。

「どうもお先でした!」

ツインやめようと思う。