文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

カーブミラー(不眠)

 

 ヘッドライトが雨に濡れたアスファルトに乱反射している。

山の峰から程なく、見通しの悪い下り坂の急カーブは、今まで何台の車を飲み込んできたのだろう?

真下に広がる湖を眺めながら次に飛び込んでくる獲物を物色していると、丁度良いタイミングで、一台の車がスピードを落とさないままやって来た。右手には携帯電話、油断を絵に描けば、彼を正確に表現できそうだ。

いつかの事故以来修理されていないガードレールは、「今日僕は役に立たないだろうなぁ」なんて言ってるみたいに、笑うように軋んでる。

彼の車がカーブに差し掛かる。そろそろ僕の顔が見えるはずだけれども、見えるだろうか?見てくれるだろうか?必ず彼の顔よりも先に、明るいライトが見えるはずなんだけれど。

 そんなことを考えていると、ようやく眩しい光を感じることができた。おお、都合良くロービームじゃないか。対向車でもいたのだろうか?いや、そんなことを考えるようなタイプには見えないな。などと独り言ち、僕は動かない身体を照らすヘッドライトに身を任せた。

 結果は成功だった。

僕に反射した光は、狙い通りに彼の目を灼いた。

突然の急カーブ、過度に踏んだアクセル、右手に持っていた携帯電話のおかげでハンドルは切りきれない。下り坂のなか慌てて踏んだブレーキは、残念だけれど濡れた路面を掴みきれない。

 さて、そろそろフィナーレだ。

壊れたガードレールを掠めて、立て掛けてある僕を擦り抜けて、彼の車は宙を舞う。もちろん翼なんて生えてない。せめてガードレールが健在だったら、慣性の法則を極めてダイレクトに体感できたかもしれないね。

車が水面に飛び込む音を聞いて、僕は彼にさよならを告げる。せめて晴れていたのなら、窓が開いていたかもしれないけれど。

 沈みゆく彼はどんな気分なんだろう?なんて今更な、他愛のないことを考えながら、僕は明日からも此処に立て掛けられたまま。

ただただ修理を待っている。