文芸ヌー

生活に負担のないブンガクを。 文芸ヌー

20,21/101(xissa)



パチンコ店喫茶白ばら総菜屋の並び



お客様に夢と楽しみを、と、社長が付けた店名に差止がはいったらしい。有名なアミューズメントパークと同じ名前なのだ。クレームもつく。

さっきから社長はひっきりなしに電話をしている。

バイトのぼくらは他人事だ。明日から休みか、とか、次探すか、とかひそひそ噂しあっていた。

電話に区切りのついた社長はぼくらを呼び集めた。

ちょっと作業してくれ。

薄い髪を頭から上る湯気で乱した社長は言った。

てんてん、取ってくれ。

ぼくらは一瞬黙った。

デのほうですか?ズのほうですか?

一番年かさが尋ねた。

ズの方。社長は意を決したようにそう告げた。

スにするのか。

ぼくらは腑に落ちない顔を見合わせた。そんなもんか。

椅子や灰皿、その他の什器備品には同色のテープを細かく切って貼って消した。

自動ドアにはしかたなくガムテープを貼った。余計目立つ。

チラシは黒いマジックで乱暴に消していく。

ポケットティッシュの後ろにはいっている紙は最初は抜いて消して入れ直していたが面倒になって上からマジックで塗ることにした。

社長はうつろに応接椅子に座っている。髪はぽやぽやのままだ。

ぼくは脚立を持って外に出た。

しょぼい電飾看板を眺める。同じ名前だけど間違いようもなく別物だ。

幅の狭い商店街の、人通りが絶えたところを見計らって脚立を全開に伸ばした。素手でてんてんの電球を抜いた。

 

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アンティークといえばそうだが


喫茶トゥアイライト。二度見しても足らずに立ち止まってしまった。

薄汚れた幌が経年劣化にぎりぎり耐えている、絵に描いたような高架下の喫茶店だった。

すすけた窓ガラスに「ライオンパンのサンドイッチあります」という手書きの張り紙がある。

魔法にかかったように私は店に吸い込まれた。

店内は煙草臭かった。いらっしゃいませ、と声がして低いカウンターの向こうに金色の髪のおばさんが見えた。

カウンターの端に座ってミックスサンドを注文した。

外見にたがわない古い店だったが、わりあい繁盛しているようだった。

おばさんはひとりでさくさくと注文をこなしていく。

目の前のひとつ70円のゆで卵が消え、黄色のマグカップでマヨネーズと混ぜ合わされる。

ちびたキュウリが刻まれる。トマトがスライスされる。そしてハム。

棒のような長い食パンが棚から出てきた。あれがライオンパンか。

分厚くパンが切り出されあっというまにサンドイッチが出来上がった。ツヤの失せた花模様の皿に載せられて眼の前に置かれた。一切れ手に取ると同時にコーヒーもやってきた。

しばらくすると客が引き、気がつくと店にはおばさんと私と、反対側の隅っこに座っているおばあさんだけになっていた。

どこからともなく出てきた地味なおじいさんがテーブルの上に残っている皿に手を伸ばし、おばさんは片付けなくていい旨を強く言い渡した。そして置きっぱなしになっていた皿をあわててキッチンに引き上げた。

おじいさんはテーブルの上を拭きはじめた。やらなくていいから、とおばさんの鋭い声が飛んだ。

まったく動かないおばあさんと怒られ続けるおじいさん。おじいさんを監視しながらはげしく洗い物をする金髪のおばさん。

私は下を向いて黙々と食べ、たまに息継ぎをするように顔を上げた。

ふいに道路の音がした。ドアのベルもがらんがらん鳴った。新しいお客だ。

いらっしゃいませとおばさんの声がして、何事もなかったかのようにメニューとおひやが運ばれていった。

そして、卵が混ぜられ野菜やパンが切り出されて、新しいサンドイッチが出来上がる。

おばあさんは微動だにせず、おじいさんはいつの間にかいなくなっていた。

厚切りのパンのサンドイッチはとてもおいしかったが、それきりあの店には行っていない。店の前を通り過ぎることはある。トゥアイライト、と心の中で正しく呟きながら通る。