文芸ヌー

生活に負担のないブンガクを。 文芸ヌー

11,12,13/101(xissa)

 

陽ざらしの洗濯バサミ砕ける

 


届かない想いはどこへ帰るのだろう。
売りに来た本が鞄の中できゅっと音を立てた。
土がむき出しになった土間は湿気ていて、そのくせ店の中は埃っぽい。
呼び鈴を鳴らす。店主はなかなか出てこない。 

いつからあるのかもわからない鬱蒼と重なる本を眺める。この一冊一冊の中に思想や言い分や方法や、さまざまな思いが詰め込まれているのだ。
彼らはその力を思う存分ふるったのだろうか。満足してここにいるのだろうか。 

想いが十分に伝わることは少ない。そう思う。
街頭演説も犬探してくださいの貼り紙も宣伝カーも横断幕もささやかな願いも。
一瞥も得られずに叫んでいる。
声を枯らしても届かないことに憤っている。
熱だけが凝る。

古書店の片隅で幾千もの言葉が積み重なり、のこりの夢を見ている。
いくつかはこらえきれずにページの端からすべり落ち、ぽたぽたと地面に染み込んでゆく。 

火が土を焼くにおいだ。

 

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早朝のわたり鳥をひとりで見ていた

 

届かない想いはどこへ帰るのだろう。
どうして父は私にこんな名前をつけたか、母に尋ねたことがあった。
父は誰の言うこともきかなかったそうだ。
かわいくてしかたなかったのだとは思う。
東金の西郷どんと呼ばれる自分にそっくりのおんなのこが。 

デブで地味で成績もよくなくて何をやってももたもたした、同級生にも先生にも好かれない女が必要以上の名前を持って女子高に入学した場合。その三年間はどう考えても悲惨でしかない。
今、私は文化祭の出し物でステージに立っている。
ものまねアイドルグループのセンターに立たされた私に悲鳴のような歓声が飛んでくる。笑い声と一緒に。 

私を指差して笑っている生徒たちなどどうでもよかった。
父は今、どう思って私を見ているんだろう。
失望させてしまったかもしれない。いやもう絶望かもしれない。「そう」はなれなかった私に。
自分を形作っているものを全部投げ捨てて逃げ出したかった。泣きそうだ。目に力を入れて無表情に手足を動かす。呪いのようにコールがかかる。 

私の名は桜華。チェリーと読む。

 

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宵の口にうつむく水銀灯

 

届かない想いはどこへ帰るのだろう
まだ来ない電車を
いつまでも待ってる 

帰り道日暮れて
あしたはまだ遠くて
落ちることのないまま消えてゆく涙 

ちぎれたリボン空になびいて 

ひとりきりの夕焼けがいちばんきれい
古い歩道橋から流れる町を見てる 

あかねの空がむらさきに夜に 

夜の端にまぎれてひかり待つ夜明け前
いつかなつかしいうたを
思い出せますように