文芸ヌー

まもるべきものはなにもない。文芸ヌー。

家族で帰宅

家族六人で外食から戻る。
鍵を開け、時計を見て、誰かが「もうこんな時間か」と言う。「もう」と「こんな時間」の感覚は、20時半だと丁度良く、21時を回っていると「料理が出てくるの遅かったしね」などと振り返る具合。銘々部屋に戻っていく。祖父はスラックスとジャケットがシワにならないうちに脱ぎ、甚兵衛に着替える。スーツを着ている時に一度でも座ればクリーニングに出す神経質な性格と、向かいのクリーニング屋の顔を立てているところが上手く噛み合った行動だ。父もまた楽な服に着替え、テレビを点け、早く野球の結果を知ろうとしている。母は風呂に水を張る。長姉は二階の自分の部屋へ戻る。テレビを見に戻ってくることもあるし、そのまま降りてこないこともある。まだ誰も落ち着いていないその時間、次姉と私は台所か居間にいる。お茶を入れたり、扇風機を回したり、こたつのスイッチを入れたり、留守番をしていた祖母にリンゴをすりおろして持っていったり。冒頭で家族六人と言ったが留守番をしていた祖母を入れて七人。一番風呂は祖父のもの。とんねるずが見たい。今のうちに時間割を合わせておこうかな。お絵描きしたい。パズルの続きもしたい。百人一首もしたい。歌詞カード見ながら2曲ぐらい聴きたい。布団でラジオ聴きたい。22時過ぎたら寝なきゃ。「ハァお先」いつの間にか風呂を済ませた祖父が廊下を渡る。次は父の番。まだ大丈夫。

あのそわそわした1時間半ぐらいの時間は10分刻みぐらいでいろんなことをして、いろんなことができた。

家族六人で外食から戻り、鍵を開け、時計を見た「もうこんな時間か」の「もう」と「こんな時間」の感覚で目を覚ます。今、私は東京で一人床に仰向けになっている。午後の陽が傾いている様子。いつの間に寝てしまっていたのだろう。今、何歳の自分で何県のどの部屋にどの向きで誰と何人で暮らしているどの時代なのか、正しく設定するのに少し時間がかかる。玄関の鍵を開けられた一番奥の部屋の気持ちで息をしている。