文芸ヌー

生活に負担のないブンガクを。 文芸ヌー

山伏 額 で検索する。(天久聖一)

以前から山伏が額につけている、黒い多角形の「アレ」が気になっていた。検索窓に「山伏 額」で打ち込むと、期待通りその詳細を知ることができた。
読むとアレは頭襟(ときん)と呼ばれる装具らしく、山道で転んだ際、額を保護する役目があるという。

しかし、私が驚いたのはそこの書かれたもうひとつの役目である。なんと「アレ」は水を掬って飲む、つまりコップとしての使い道もあるというのだ。
それまで得体の知れない存在だった山伏に、急激に親しみを覚えはじめている自分がいた──。

だっておでこにコップつけてるんスよ? かわいいじゃないですか!

無論、アレには深い宗教的意味があるのだろうし、額に装着することに関しても合理的な理由があるだろう。
しかし今後山伏に転身する予定もなければその気もない私にとって、やはりアレはシュールなファッションアイテムに違いなく、いつもの妄想のタネに他ならない。

まずは女子高生の間で流行して欲しい。
呼び名は正式名称の「ときん」を採用する。なかなか可愛い響である。

丸い額に色とりどりの「ときん」をつけて、街を行き交う女子高生。
形や素材にこだわる者もいるだろうし、付け方にしても、あえて中央をズラすオシャレ上級者も現れるだろう。
トイレの鏡に並び立ち、後ろ手に「ときん」を結びながら放課後の相談をする女子高生。
ときどき汗でずれてくる「ときん」の位置を直しながら、黒板の字を写す女子高生。

コップとしての特性も考えるなら、熱いレモネードの入った「ときん」を両手で包むようにして飲むといった、萌えシーンも想像できる。そうなると当然「俺にもひと口くれよ」と憧れの先輩が現れる。必然的に間接キスが生まれ、結果として淡いラブストーリーが完成する。

ちなみに山伏と言えば、さらに特徴的なアイテムとしてホラ貝がある。
これも前々から不思議に思っていたのだが、なぜ山岳修行者である彼らが海で採れるホラ貝を象徴的に持つのだろうか。そこにもやはり深い、宗教的な意味があるのだろうか。それにしても……

ホラ貝にしろ「ときん」にしろ、更に言うなら胸についてるボンボン(梵天というらしい)にしろ、山伏のアイテムはいちいち謎というか、面白過ぎやしないだろうか?

もしもサウナの脱衣場で、隣りの人が開けたロッカーに山伏アイテム一式が入っていたら……いま唐突にそう思った。
ハンガーに吊された白装束やボンボンはまだ許せる。が、扉側のフックにさりげなく掛けられた「ときん」や、下に置いたホラ貝が視界に飛び込んできたとしたら、私はおそらく笑っちゃう気持ちを通り越して、逆に腹立たしい気分になると思う。

なんで山伏がサウナに来てんだよ!

……いや、テメエの妄想に怒ってもしょーがないんだけど。