文芸ヌー

まもるべきものはなにもない。文芸ヌー。

自由律に散文  5 (xissa)

ひとくち飲んで注ぎ足す麦茶

 

 

走ってきた形のまま草履が脱ぎ捨ててある。通り雨がきた。縁側に転がり込んだタツヤは、濡れた頭のまま、ネーネー、アイス、と甘えた声を出した。
洗濯物の取り入れが先だ。アイスをせがむタツヤに、頭拭きなさい、着替えなさいとどなりながら、私はどんどん洗濯物を家の中に投げ入れる。
タツヤはその中からタオルを拾い、おざなりに拭く。自分のシャツも掘り出して着替え、勝手に冷凍庫からアイスを取り出して食べている。濡れたものは放りっぱなしだ。口のまわりを紫色にして、どぎつい色の棒付きアイスをしゃりしゃりかじっている。

地面が音を立てている。雨に押しつぶされた空気が風になって床を這って吹いてくる。雨がおこす風はしっとり冷たくて気持ちいい。
食べ終わったアイスの棒をくわえたままひんやりした縁側で、タツヤはぼおっと空を見ていた。タツヤは生まれつき4本ずつしか指がない。そのうち天に還る子供だ。

洗濯物を片付けている間に外はしずかになった。雨は通り過ぎて陽がさしはじめた。また別の風がはいってくる。
ネーネー!てぃんばう!
縁側のタツヤがはじけるように叫んだ。アイスの棒を投げ捨て、声だけ残してとびだしていく。はだしのまま、ぬかるんだ赤土を蹴って。
サバ!タツヤ!
私の声は間に合わず、はだしのタツヤの姿はもう見えなかった。あきらめて、縁側に放り出されたちいさな草履を拾って揃える。
見上げた空にはくっきりと、大きな虹がかかっていた。

 

※(てぃんばう=虹)(サバ=草履)