文芸ヌー

まもるべきものはなにもない。文芸ヌー。

書き出し自選・大伴の5作品(大伴)

書き出し小説の作家が自身のオススメ作品を紹介する「書き出し自選」。第三回のご指名をいただきました大伴(おおとも)と申します。本業は大伴亮介という名でイラストなどを描いております。お仕事ください。よろしくお願いします。
偶然にも第三回つながりになるのですが、自分はデイリーポータルZの書き出し小説には第三回から参加しております。このたび自選にあたって過去の採用作品をすべて見直したのですが、長くやっているぶんそれなりに本数も多く、どれもスバラシイ作品ばかりですので、5本に絞るのは困難を極めました。なので、シンプルに思い入れのある作品をチョイスさせていただきました。
お付き合いいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。

 

 


これは、股間に物が当たった際の金属効果音を最初に考案した男の話である。
(第11回・自由部門)

 

自分は「珍プレー好プレー」というテレビ番組が幼少の頃から大好きでして、その番組では必ず「タマにたまたま球が当たったシーン」が紹介されるのですが、その際の「チン!」というあの効果音をたいへん素晴らしい発明だと思っていました。いったいどこの国の天才が考えたのだろう?と。長いこと抱きつづけていたその想いを世に発表することできたという意味で、この作品にはとても思い入れがあります。
(余談:自分も野球部時代にタマに球が直撃したことがあるのですが、「チン!」どころの痛みではなく、気絶しました)

 

 


中は全裸だが、コートはカシミアである。
(第49回・規定部門 モチーフ:変態)

 

モチーフが「変態」ときいて日本人がまず思い浮かべるのは「全裸にコートの人物」だと思います。すこし真面目な話になってしまうのですが、自分は規定部門の作品を書く際、まずモチーフから連想されるキーワードをとにかくいっぱい絞り出し、そこから「他の人と競合する確率が低そうな内容」を拾い上げ、そこに物語性を練り込んでいく、という方法をとります。しかし、この変態の回においては正々堂々あえてステレオタイプな変態像で勝負してみたいと考えました。

結果として、軸をずらすといいますか、闘牛士のような術でヒラリと上手く着地できたのではないかと思っており、そうとう賢く書けた作品だと自負しています。

 

 


息子の読書感想文が濡れ場に突入した。
(第52回・自由部門)

 

この作品は「つづきが気になる/光景が浮かぶ/笑いの要素がある/エロの要素がある/文字数が少なめ」という自分の理想要素をすべて込められた一本です。上手いポイント(自身で言うのもなんですが)としては、まず人名ではなく「息子」と書くことで目線を親に固定し、「書かれていた」ではなく「突入した」と書くことによってリアルタイムな緊迫感をセッティングし、「濡れ場」によって足もとをすくい、ちょうどいい引き際で文をストップできているあたりです。自分はイケてる書き出し作品には「クオリティが整った状態からのプラスもうひと味」が必要だと考えているのですが、この作品の場合は「作文」ではなく「読書感想文」にすることで「なんの本を読んだのか」という謎を味付けられたのが良かったと思っています。

 

 


女は慣れた手つきで傘袋を抜いた。先端に溜まった雨が、他の人よりも少し多い。
(第66回・規定部門 モチーフ:官能)

 

この「官能」の回は、「授賞式イベントでみんなの前で音読されたら興奮しちゃう作品」を書こうと強く心に決めていました(残念ながらノミネートされませんでしたが)。自分は日頃からいろんなものをエロい目で見がちなのですが、スーパーのビニール傘袋はやばいですね。相当やばい。テクニック面の話ですが、まず女性が抜くというだけではすこし弱いので、「慣れた手つき」とすることで物語性を足しました。溜まった水を「雨」と書けたのも良かったですし、量を「少し多い」と調整できたのも我ながらいやらしいと思います。

 

 

アダルトサイトの履歴だけが、私のアリバイを証明してくれた。
(第68回・自由部門)

 

日常に潜むリアルな恐怖を書いてみました。無実を知ってもらうために最も知られたくない部分をさらけださなくてはならないというジレンマ。実際にあり得る話なんじゃないかとすら思っておりまして、自分がこのような状況に陥らないことを切に願いながら生きています。

 

 


以上です。

自分はいままで投稿した作品はすべてメモってあるのですが、良い機会なのでその本数をカウントしてみたところ1528本もありました(うち採用は133本)。けっこう書いたなあと思います。やはり書き出し小説には人を虜にするパワーがあるということなのでしょうね。わかりませんけど。

本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。 よいお年を!