文芸ヌー

生活に負担のないブンガクを。 文芸ヌー

小夜子

六人の女たち(小夜子)

店に入ると既に全員揃っていた。私の椅子だけがぽっかりと空いている。彼女たちは遅れて入ってきた私をチラと見て、相変わらずねと嫌味を隠さず口にした。「その遅刻癖、直したほうがいいんじゃない」 私が椅子に座るための隙間を作ってくれながら、髪の長い…

上手にサヨナラ(小夜子)

線香が燃えている。 長いこと寝たきりだった祖父が亡くなった。十六年前に脳梗塞を患い右半身の自由を失ったうえ、併発していた咽頭がんの治療によって声すら出せなくなった祖父が亡くなった。享年八十六歳。祖父は散歩が好きだった。お酒を飲むのが好きだっ…

かわいいわたし

結論から言えばわたしはかわいいのだ。 独我論、という認識をご存知だろうか。 <真に実在するのは自我とその所産だけであり、他我やその他すべてのものはただ自己の意識内容にすぎないとする哲学的立場>(コトバンク引用)とされている哲学的認識論のひと…

まがいもの(小夜子)

若い祖父母の隣にわたしの顔をした女が立っている。 ずいぶん昔にしまい込んだものを探すため、あっちだこっちだと箪笥を引っ掻きまわしているとアルバムが一冊まぎれて出てきた。革張りの立派な装丁だったが、埃をかぶってしなしなとカビ臭く、ひと目みて古…

「ひとりの白」(小夜子)

はじめて喪服を着たのは十歳の夏だった。 癌を患っていた祖父が夏の盛りに亡くなった。祖父は祖母とともに地方の山あいに居を構えていて、東京に住んでいるわたしたち家族と顔を合わせることは滅多になかった。なにかの折に対面しても、人見知りのきらいがあ…