文芸ヌー

生活に負担のないブンガクを。 文芸ヌー

井沢

気配(井沢)

録画の緑のランプを見ている。この家から誰もいなくなる時間を初めて経験している。留守だ。「ひとりで待ってるよ」と言ったのは自分からで、それが意外にもすんなり受け入れられ、降って湧いた初めてのお留守番だった。いつもは赤く光るランプが、今は緑色…

ヒップホップ文学(井沢)

被ったフードにサングラスの兄ちゃんが向かいの席に座った。ドクロの指輪を付けたほうの手に文庫本を開いている。電車は光のどけき午後、座席もやや空いている。何の前ぶれもなく、空いてるほうのいる手でヒップホップなキメ仕草を2、3ポーズキメた。目線…

そして誰もいなくならない(井沢)

7月、西伊豆のとあるキャンプ場。 砂浜も岩場もある緑色の海 。C字型の湾にかかる崖はそのまま背後の山脈に繋がっている。私が犯人ならうっかり重要なヒントになる過去の話をしそうな景色だ。砂浜から一段上がれば横に広いテントサイト。 昼間はのんびり絵な…

家族で帰宅

家族六人で外食から戻る。鍵を開け、時計を見て、誰かが「もうこんな時間か」と言う。「もう」と「こんな時間」の感覚は、20時半だと丁度良く、21時を回っていると「料理が出てくるの遅かったしね」などと振り返る具合。銘々部屋に戻っていく。祖父はスラッ…

聞けない遊びとにゃんぱらり(井沢)

ああ、私はいつかこれを忘れてしまう。その感覚だけが残っている。私はもうすぐこの出来事を忘れてしまう。日々に埋もれてもっと大きくなったらきっと全部消えてしまう。何なら涙さえ流した感覚もある。家の外だった気がする。人がいたような気がする。優し…