文芸ヌー

生活に負担の少ないブンガクを。 文芸ヌー

ごあいさつ (天久聖一)

文芸というとなにやら高尚に聞こえるけれど、つまりは文をつかった芸である。私にとって文芸は、芸術というより演芸に近い。高い理想を追うよりも、もっと身近な相手を想定したささやかな自己表現。 その芸は巧くなくていい、磨かれてなくていい。どうにかこ…

ザ・我慢の限界

ローカル線の知らない駅に用事があり、下車した。駅前にある自販機に、ここにしかない珈琲があると、ネットで読んだ。僕がそれらしき自販機に近付くと、その自販機は既に営業を停止していた。ネットの写真自体が嘘だった。そもそも場所が違う。騙された。次…

井筒監督 (大伴)

先月の話。近所の焼き鳥屋にひとりで入店。カウンター席に案内されると、左5メートルほど離れた席に先客がいた。男はすでに酔っ払っている雰囲気で、カウンター内の店長と会話に花を咲かせていた。僕はそちらを直視することはなかったが、その特徴的なダミ声…

全力フィーカ(哲ロマ)

スウェーデンにはフィーカの習慣があるのだとカーラジオが言っていた。フィーカとは何なのか、フィーカとは、まあ、ラジオから聞いた情報を自分なりにまとめてざっくり言うと、同僚、友人、恋人、家族とコーヒーやら紅茶やらを飲んだりパンやらお菓子やらを…

勝手に寄り添わないでください(伊勢崎おかめ)

近年、主にサービス業の広告などでよく目や耳にする言葉がある。 それは「寄り添う」である。 ・お客様一人ひとりに寄り添う対応を実現するために ・お客様にそっと寄り添うサービスを ・「まごころ」を込めてお客様に寄り添う これらは実際に広告で用いられ…

28/101(xissa)

港町錆びて軋む

トシと鎧と豆まきと(井沢)

「お呼びしましたゲストは、今年、年ヨロイヅカでもある鎧塚トシ彦さんですどうぞ〜」「何ヨロイヅカもたいてい僕になりません?」「お集まりの皆さま、節分をもって暦は春!新しい一年の始まりです。さ、鎧塚さん、豆をどうぞ」「これはまた立派な純金の升…

ばあちゃん (紀野珍)

四台のストーブでぼんやりと温められた広間の隅々に、抑揚のきいた読経が行き渡る。 師走。北東北の午後二時。陽はだいぶ高度を落としているが、窓の外はまぶしいくらい明るい。うずたかい根雪に反射して射しこむ光が、祭壇と、パイプ椅子に腰かけて故人を悼…

ワガクニ。(小夜子)

『うわさのヒューマン』と同時期に発表した作品です。こちらも再発行の予定がないので公開します。ご購入下さった方、お手に取って下った方、ありがとうございました。

2019年1月のおしながき

文芸ヌー第15号

書き出し自選・xissaの5作品(xissa)

xissaです。きさ、と読みます。 ほんとにそう読んでいいのかどうか、私も詳しいことはわかりません。 検索すると「もしかしてissa?」と訊かれますが私はDA PUMPではありません。USAではないのです。 私のxissaは ここの、 ここ です。行ったことはありませ…

マスオのやつ(哲ロマ)

いつかの夕食の時、何のきっかけだったかは忘れたが、奥さんと、サザエさんの中で流れるいろんな音楽の話になった。てってれてれれれてれって〜、てってれてれれれてれって〜、てってれてれれ、てってれてれれ、てれれてれれてれてれって〜それな主に何事も…

ボジョレーヌーボー (大伴)

妻は風呂に入り、義実家のリビングには私と義父が残された。義父とは仲が微妙なわけでもないが、そこまでフランクに会話を続けられるような関係でもない。どことなくこわばる空間。古いディズニーのクロックだけがリビングに時を流す。義父は必要がなければ…

ツイン(哲ロマ)

仕事であちこちへ行く。仕事仲間をトラックの助手席に乗せ遠くへ行く。仕事仲間と二人で遠くのビジネスホテルに泊まる。経費を節減するため時には男二人でツインルームに泊まる。まあ一泊だけだし、相手がどんな人であろうが、ほとんど寝るだけの一泊だし、…

蝋人形の部屋(ボーフラ)

数年前から通っているバーのバーテンダーの部屋に招待された。その夜はバーに官憲が巡回に来て、やれアルコールの度数が強いだの、やれ喫煙席から煙が漏れているだの(カーテンで遮蔽しているだけだ)、全く商売にならなかったので、僕とバーテンダーは、肩を…

いのち(伊勢崎おかめ)

牧場に遊びに行った。そこは、乳搾りやバター作り体験のできる牛の牧場だった。他にも、搾りたての新鮮な牛乳の試飲や、乳製品の販売なども行っていた。食べてはいないが、搾りたての牛乳で作ったソフトクリームはさぞかし美味だろう。 牧場内をうろうろして…

「書き出し自選」のおしらせ

やあヌーだよ。ヌーっとあけましておめでとう。 ことしもどうぞよろしくね。 あのね。「かきだしじせん」なんだけど、 つぎのごしめいのまさゆめのさんにんめちゃんがごたぼうにつき いっかいぱす、だそうです。 で、へりこぷたちゃんとのそうだんのうえ、つ…

26,27/101(xissa)

おみくじが良すぎる/制服の自分がすごく他人だった

うわさのヒューマン(小夜子)

2018年2月のコミティアで配布した作品です。再発行の予定が無いので公開します。購入してくださった方々、本当にありがとうございました。 ※適切な表現が思い浮かばず便宜上「男の娘」と表してしまいましたが正確には彼女は「男の娘」の定義には当てはまらな…

ゴーストバスターズに置いていかれた(井沢)

ゴーストバスターズに置いていかれた。 「まだ早いと思って」小さい手にとぼけた白い幽霊が赤いシートベルトをして両手を広げたようなゴーストバスターズのバッジが手渡された。人生初の缶バッジ。これを見た瞬間はまだ嬉しかった。 お正月の我が家には親戚…

2018年12月のおしながき

文芸ヌー第14号

カーブミラー(不眠)

ヘッドライトが雨に濡れたアスファルトに乱反射している。 山の峰から程なく、見通しの悪い下り坂の急カーブは、今まで何台の車を飲み込んできたのだろう? 真下に広がる湖を眺めながら次に飛び込んでくる獲物を物色していると、丁度良いタイミングで、一台…

店の名は(吉田髑髏)

#作文 #吉田髑髏どーも、こんにちは!バッバーン!バロンで〜す!YouTuberさせてもらってます……………カット!カット!!掴みがイマイチだよなー!どうするよー!ググってみるかー。スマホに向かって叫んでは頭を掻き毟る。男の名はバロン小柳。本名、田中学。2…

思い出し笑い(もんぜん)

思い出し笑いしている人を見るのが好きです。なんで笑っているのか、その人の頭の中を覗きたくなります。そこで実際に聞いてみました。みんなの思い出し笑いしちゃう話。 ○Mさんの思い出し笑いしちゃう話小学生のとき、中南米の国名を答えるテストがあった。…

奇跡(紀野珍)

「お父さん! 見て! お母さんが!」「ああ、奇跡だ。ミツコが目を開けてる……!」「……あなた、マユミ……。どうしたの、ふたりともそんなに泣いちゃって……」「お母さああああん!」「ミツコ! よかったな! よかったな!」「ほっほっほ。見てのとおり、おぬし…

願いが叶った話 (紀野珍)

行き交う人を見ると雨があがっているようだったので、傘をたたんで角を曲がる。ジュンヤくんのおうちがある、車一台が通るのがやっとの狭い道。そこにお母さんがいた。駆け寄って背中を叩く。「ああびっくりした。なによテッペイ。いま帰り?」「うん」「い…

学級会(ボーフラ)

「それでは、学級会の歌を歌います」 みんなの目配せが、ヨシオの周縁に集まる。ああ、まただ。ヨシオは恥ずかしさでいっぱいだった。ヨシオの兄が作詞作曲した、学級会の歌をまた、学級会の終わりに歌わなくてはいけない。先生がオルガンを弾いて、学級会の…

蕎麦屋『浪漫』の苦悩(哲ロマ)

へい、いらっしゃい、蕎麦屋『浪漫』へようこそ。手打ちでも何でもない、駅の蕎麦屋の雑な味、あの感じが昔から好きで開いた店。小さい店だけど結構長いことやってる、アルバイトを2人雇ってる、券売機は無い、うどんはやってない、水曜と日曜は休みで、最近…

24,25/101(xissa)

我に返る自分がない/コンビニ明るい淋しい

マライアとハチミツの棚(井沢)

大丸ピーコックにて。 マイケル坊やの「ママがサンタにキスをした」の歌声。 あーいそ まみー きしん せあーんたくろ〜ず 続いてマライア・キャリー。 急に寒くなった空気を見ないふりするようでかえって引き立てる電飾。東京都下のスーパーにもクリスマスは…